ぐる式 (貳) より引っ越し作業中.未完.

2008年2月17日日曜日

ジョージ・キューカー『ガス燈』,イングリッド・バーグマン,シャルル・ボワ イエ

"If I were not mad, I could have helped you. Whatever you had done, I could have pitied and protected you. But because I am mad, I hate you. Because I am mad, I have betrayed you. And because I'm mad, I'm rejoicing in my heart, without a shred of pity, without a shred of regret, watching you go with glory in my heart! Mr. Cameron, come! Come, Mr. Cameron, take this man away! Take this man away!" © Paula Alquist Anton.

バーグマンのアカデミー主演女優賞受賞作.初見.正直,甘ったるいロマンスものだと思って見ようとも思うちょらんかったのだが,ぬわんと,スリラーだった (笑).原作はパトリック・ハミルトンの戯曲.英国戯曲で,どうも江守徹が二役演じた ジェラルド・ムーンの『コープス』に似た雰囲気.だが,ギャグは一切なし.もう六十年以上前のモノクロ映画である.『英國戀物語エマ』より一昔前という雰囲気.ただ,アントン家はキャンベル家やメルダース家どころか.ジョーンズ家よりも格下.元々は大歌手だったアリスの持ち家だとはいえ,規模から言うとケリーさんちより上という程度.使用人を複数雇うだけの経済力はあると言うことで,中の上か中程度か.元々が歌舞音曲に従事しているしな.

タイトル通りに,街灯はガス燈.往来を辻馬車が行き交う.舞台は十九世紀後半のロンドン,ソーントン・スクエア.冒頭に出て来る新聞によると 1875 年 10 月 14 日.で,その新聞が報じている内容が「ソーントン・スクエアの殺人事件未解決」.高名なプリマ,アリス・アルクィストが絞殺される.事件は迷宮入りで,高貴筋からアリスに贈られたという戴冠用宝玉は行方不明.アリスの姪 (ヒロイン) のポーラは.旅先のイタリアで,叔母も教えていたという声楽教師のグァルディの下で学ぶ.九年後.先生の元に出入りしていたピアノ弾きのグレゴリー・アントンと恋に落ちたポーラは声楽の道を捨てて,結婚生活に入る.しかしながら,このグレゴリーという男はぶら〜ぶら〜ぶら〜ぶら〜ぶら〜,ピアノで『こうもり』の十一番のワルツを弾きながら,「新しいオペレッタだ.シュトラウスのような曲が書ければ……」と嘯く御仁である.ちなみに,『こうもり』のウィーン初演は 1874 年.

戯曲仕立て故か,構成に隙がないと言うか,ご都合主義というか.イタリアでコモ湖の向かう列車でポーラが偶然隣り合わせたオールド・ミスが,隣家のミス・スウェイツだったとか.九年前のポーラを佳く知っているはずなのに,引っ越して来た九年後のポーラが判らないのだろうか,とか.この辺はエポケーですかね.ロンドン塔見物中のアントン夫妻にブライアン・キャメロンが挨拶した訳は,その後キャメロンがどんな仕事をしてるかが判るまでお預けとか.ちなみに,総監の助手だそうである.このとき,グレゴリーが展示品の宝石を喰い入るように眺めているのもポイント.料理人のエリザベスが耳が遠いというのもちゃんと理由がある.メイドのナンシーが巡回中の警官といちゃついているというのも,重要な伏線になる.もちろん,タイトルも.一家のガスの総供給量って決まってんのか,それともシステムがタコなせいで,点火口が増えると火口一個当たりの光量は減るのか,とにかく,ある時間帯にガス燈が暗くなる.いわば,システムのバグが重要な要素になっとる (笑).中盤で,壁から紛失した絵画を,まるでポーラがあらかじめ隠し場所を知っていたかのように出して来るのは未だに判らん.ひぇ〜,ジュリエット役[アリスはグノーの『ロメオとジュリエット』のヒロインが当たり役だったという設定.このオペラ自体があんまりメジャーでじゃないんではないかという疑問は却下 (笑).]の手袋 (の片割れ) も伏線ですか! でも,ミス・スウェイツはもっと活躍すんのかと思ってた (笑).コモ湖駅でポーラが降りたときにグレゴリーを見て「はっ!」となってたんで,この伯母さんが真っ先にグレゴリーの悪事に気付くと思ったんだがな.

  • Gregory Anton : Charles Boyer
  • Paula Alquist Anton : Ingrid Bergman
  • Brian Cameron (スコットランド・ヤード勤務) : Joseph Cotten
  • Elizabeth Tompkins (アントン家のコック) : Barbara Everest
  • Nancy Oliver (アントン家のメイド) : Angela Lansbury
  • Williams (警官) : Tom Stevenson
  • Miss Bessie Thwaites : Dame May Whitty
  • 監督: George Cukor
  • 脚本: John Van Druten, Walter Reisch, John L. Balderston
  • 原作: Patrick Hamilton
  • MGM 1944

当時バーグマン 29 歳.楷書的でかつ匂い立つような美貌が光る.ぷにぷに感も充分で,重量感もしっかり感じられる.ってか,バーグマン,首太い.ってのはど〜でもエエが,モノクロ映画ってエエな〜.何かのイタリア・オペラのアリアと,『こうもり』の一節を歌っているのは本人だろうか.

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