原作が今手元にないからうろ覚えのまま書くけど,あるところにけっこう大きなうさぎのコロニーがあって,そこに予知能力を持った虚弱うさぎのファイヴァーってのがいる.そのファイヴァーがコロニーの壊滅を予知するところから,『Watership Down』の物語が始まる.これって,実は人間が宅地造成のために,邪魔なウサギの巣穴にガスかなんかを吹き込んで一気に殲滅するってことなんだけど.で,コロニーを出ることに決めたファイヴァーはヘイズル (エクソダスのリーダー) やらビグウィグ (頼りになる戦闘士) たち*1とともに,さまざまな試練をくぐり抜け,彷徨の果てに新天地を手に入れる*2.新天地「ウォーターシップ・ダウン」 で新たなコロニーを作り上げるわけだが,コロニーには野郎ばっかし.このままでは一代限りで滅びるのは必至.ということで「七人の花嫁」を「略奪」 / 「サビーニー女を略奪*3」するわけだが,これに怒ったグルンヴァルドならぬウーンドウォート率いる別のコロニーから襲撃を受ける.こちらはまるっきり軍事帝国 Darth Vader*4 で,圧倒的な武力を嵩にヘイズルたちのコロニーを奪取しようとするのだが,激戦の末 (敵将とビグウィグとの死闘が印象的) というか,神懸かったファイヴァーのおかげだったか,からくもこれを退けて独立を守る.新天地を築き上げたヘイズルたちが次代にコロニーを託すところで物語が終わる.と,こんな話だったと思う*5.
要約すると他愛もないけど,そこはそれ,ヒュー・ロフティングはちょと違うかも知れんけど,イギリス児童文学ってのには,初期のウィリアム・メインとかフィリップ・ターナーとかアーサー・ランサムとか K. M. ペイトンとか,やたらリアルに書く流れがあるんだな.ここではうさぎが主人公ということでもちろん擬人化されてるけど,ディテールはやたらリアルで細かいわけよ.ファンタジーを徹底的にリアルに描いてるわけね.だもんで訳書は分冊になってたりするんだな.おまけにうさぎの視点だから,人間には見慣れてるはずのもの (でも,うさぎには目新しいもの) が,なんか新鮮に描かれていて,ほぉ〜と思うこともしばしば.農場突入のシーンとかね.確かトラクターだかブルドーザーだかを「フルドド」と呼称していたはず.とまれ,作品の吸引力はかなり強力.読み出したら止まらないはず.
あと,新しい國には新しい伝説,というわけでもないだろうけど,ときおり『エル・アライラーの物語』みたいな章が混じる.「エル・アライラー」は,まぁいわゆるトリックスターで,「ナスレディン・ホジャ」とか「ティル・オイレンシュピーゲル」とか「どきどきダニー」,「吉四六」さんや「一休」さんみたいに頓知 / 機知 / 悪賢さに長け,ときには創造主をも出し抜くほどの神話的英雄.
神宮輝夫さんの『ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち』訳本二分冊 (評論社) は高校の頃読んだのだが,ソースが思い出せない.同級生の小川 M 子さんに貸したらなかなか返してくれなかったことを (なぜか) 記憶しているので,図書舘の蔵書じゃなかったのか.それとも上巻だけが入ってたのか.大学に入ってからは Penguin で再読.お〜,まだ 入手可能 だ.Paperback の方は Penguin と Puffin の 2 種類あって,後者にはカットがあったと記憶してるけど,間違いかなぁ〜.
あ〜,なんかまた読みたくなってきた (笑).
*1: もちろん,コロニーが危機的状況にあるなんて信じることができずに,今のままではうだつが上がらないから,権力を得るために別天地を求めたというものもいた,と思う.
*2: 確かこの辺りだったと思うけど,人間の殲滅攻撃を受けたコロニーではほとんどのうさぎが殺されたわけだが,からくも逃げおおせて幸運にもヘイズルたちのコロニーにたどり着いたうさぎたちがいた.彼らはそこで元のコロニーでの阿鼻叫喚の様子を語るのだが,まぁ,幼い読者はここで動物愛護とか自然保護とかを学ぶわけですな.ま,それはともかく,元のコロニーでは単なる「痴れ者」としてしか見ていなかったファイヴァーを,彼らはここで「徴」を授かったものとして認知する.ここで重要なのは,「徴」を授かったファイヴァーは,けして彼らコロニーの行動の主体ではない,ということ.リーダーはあくまでヘイズルなのである.政教分立というか,権力の構造はしっかり分けられているわけだ.すべてが単独のヒーロー / ヒロインに委ねられる一枚岩の作品群とは異なる.
*3: ウフィッツィ美術館で Filippo Adani が Rico に解説してましたな.『Gunslinger Girl』第 7 話「守護 - protezione -」
Adani「その彫刻はザビーネ女の略奪と云うんだ.ひとつの大理石から三人の人間を彫り出した傑作だよ」 Adani「伝説では,建国期のローマは荒くれ男ばかりが集まって花嫁不足だった.そこで隣町の人間を祭りに招待して,女を攫ってしまったんだ」 Rico「攫って…… しまったんですか」 Adani「若い女の子には不向きだったかな」
いやぁ,勉強になるねぇ.
しかし彼らには妻がいないので, 8 月 21 日のコーンススの祭礼競技に近隣のサビーニー Sabini 人を招き,多くのサビーニー人の娘 (一人ヘルシリアのみ人妻) を奪った.かくしてローマ人とサビーニー人とのあいだに戦が起り,サビーニー人の王ティトゥス・タティウスはローマに迫り,タルペーイアの裏切りで,カピトーリウムの城を奪い,ローマはまさに危うかったが,ヤーヌス神が熱泉を噴出させてサビーニー人の道をさえぎり,ロームルスの願いによって,ユーピテルがローマ軍を助け,ようやくにして勝利を得たので,ロームルスは神に神殿を捧げた.しかし一般にはさらわれたサビーニーの女たちが,夫と親兄弟のあいだにわけて入って,両者をなだめ,和議が成立したことになっている.かくてタティウス王とロームルスは二人でローマを支配していたが,タティウスはやがて世を去ったので,ロームルスは両民族を一人で長く支配した. 高津春繁 "ギリシア・ローマ神話辞典", 岩波書店, 1960, 1979, pp. 311-312.
ヘイズルたちは和解したんだっけか.覚えてないや.ウーンドウォートは「敗軍の将兵を語らず」じゃないけど,黙したまま舞台から去っていったような気がする.
*4: 悪の帝国 Darth Vader って言い切っちゃってエエのかな.そんなにあしざまな描写されてたっけ.
夜空の星が輝く影で 悪の笑いがこだまする 毎回毎回見る人の 期待背負って全作出演 銀河帝国ダース・ベイダー お呼びとあらば即参上! from 銀河帝国ダースベイダー
全然関係ないけど (笑).
*5: 『出エジプト記』になぞらえることもできる? じゃなかったら, Exodus, movement of Jah (rabbits) people とか.当然ながら,元のコロニーでは単なる若ものだった彼らが幾多の試練を経て刻苦勉励の末一人前もしくはそれ以上になると云うビルドゥングス・ロマンとしても読める.
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