「わたし,頑張ったから,もう佳いよね.休んでも,佳いよね」 © 神尾観鈴.
最終話.呪い解かれることなし.「……ブウウ——ンンン——ンンンン……」の輪廻の蛇はまだまだ回り続ける.……ブウウウ……ンン……ンンン…….
改心 (この場合は回心か) というモノには,つねにそれを引きずり出す事象が前提となる.人によっては,その事象がのっぴきならないものになって初めて転向する.つまりが,ソレはつねにすでに遅いのである.晴子さんの場合は,旋回する下準備はとうにできていたにも関わらず.賽銭箱の奥にあった見知らぬ他者の見知らぬ善意を待たねばならなかった.その代償はあまりにも大きい.結果的に観鈴を失うことになる.そして,その後どうするか.心からポジティヴな人間というのは鈍感の裏返しであることが多いのだが,「一年四組 神尾晴子」という名札の付いたランドセルがあるにも関わらず,一人だけ合点して退場してしまうのである.呪いなんてなかったことにしてしまうわけで,これはこれで強力な手段である.
観鈴の方はどう見ても刀折れ矢尽きた態である.千年続いている強力な呪いは生半なことでは破れないのだろうな.これが何番目の観鈴であったかは判らないが,賽の河原に積む石は「お母さん,ありがとう」の言葉である.これは親を失った子が親になれなかった母に贈る,実に強烈な言葉だったりするのだ.そうした善行を積み上げることで,いつか翼人の呪いは解けるんだろうか?
輪廻転生の全貌は不明だが,ある段階では贄と通りすがりあるいは烏という組み合わせであり,その後あるはそのいくつか後は矢島少年と野中少女という老成したコンビという姿を取るらしい.実はこの二人,発言はないが,物語の最初の方で登場している.やはり関係者なのである.「この」場所は,やはりそういう特殊な場なのである.
では,どういう場か.とりあえず,神奈を起点とする「心理遺伝」とか「集団解法治療」云々だとは今でも思っているのだが.とにかく,神奈は未だに待ち続けているのである.あるいは,まだ足りないのである.タイトルの AIR という三文字に注目する.このとき, I を区切り線に見立てて A と R に分ける.この二文字は実は位相的には同一で.閉曲線に突起が二本出ている形になる.この二本の突起を平行になるように移動する.そうすると,両手を延ばしている人を上から見ている形になる.その二字を線対称に配置すれば,それぞれ相手に手を差し延べている二人を I が区切っている形になる.この二人が手を握り合うためには I を超えなければならないわけである.ならば,愛が呪いか.あとの方になると,どうも呪いの起点は意識の認識,つまり脳化の段階で発生したようにも見える.そうなるとこれはもう解けそうにない.ならば,スタイルを変えてみる,ぐらいか,可能なのは.砂漠の上空を一人で飛んでいる神奈を引き摺り降ろして,生命で溢れ返っている森林にでも解き放つぐらいしか思い付かん.その具体的な方法は? 全員が共犯者になるしかなかろう.つまるところが,宗教の発生である.
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