ぐる式 (貳) より引っ越し作業中.未完.

2006年10月9日月曜日

ジェーン・オースティン『エマ』

「美しくて,聡明で,裕福なエマ・ウッドハウス (Emma Woodhouse, handsome, clever, and rich)」を巡る 768 ページの観察記録.これがもう一人の万事に極めて控えめな エマ*1 とは大違いで (笑),薄っぺらな独身主義を掲げて周りの縁結びに大童というコメディ.

美しくて,聡明で,裕福なエマ・ウッドハウスは,暖かな家庭に育った朗らかな性格の女性だったが,彼女にはどこやら生活上の一番いい恵みをいくつか一心に集めたようなところがあって,生まれてこの方二十一年ちかく,不幸や悩みごととはほとんど無縁な生活を送ってきた.

Emma Woodhouse, handsome, clever, and rich, with a comfortable home and happy disposition, seemed to unite some of the best blessings of existence; and had lived nearly twenty-one years in the world with very little to distress or vex her.

[ オースティン "エマ", 上巻 工藤政司 訳, 岩波文庫, 2000, ISBN4-00-322224-5, p. 5. より ]

という導入で始まるのだが,やることがとにかくステレン狂なんで,こいつはひょっとして阿呆なんじゃないかと思わされるわけなんだが,そんなのも上巻止まりで下巻を読み出す頃になると,志村ならぬ「エマ,後ろ,後ろ!」と応援したくなるから不思議なもんである.それにしても英国らしく捻くれた愛情表現だ (笑).なるほど,「わたし (作者) 以外は誰も好きにならないような女」だ.と,まぁ,観察記録のお手本のような本である.「辛辣な人間性の分析と風刺」があれば,やれ「情報統合思念体」がどうの「閉鎖空間」がどうのなど大法螺を捻くり出してスタコラ逃げる必要もないのである.ま,今のご時世でそれで売れるかどうかは知らんが.それにしてもミスター・ウッドハウスは大丈夫なのか.もう長いことないんじゃないかと危惧されるぐらい頓珍漢だな.ここに出て来る登場人物とその描き方を倉橋由美子『夢の浮橋』と比べてみると面白いかも.牧田桂子さん,卒論でオースティンやってるし.最後に山田先生と結婚するし.んじゃ,縁結びがスワッピングになるの? いやいや,エマとミスター・ナイトリーとの血縁関係ですよ (笑).

おおむね読みやすいんだけど,どうも女性陣の会話の訳が引っ掛かる.会話主体だから余計に.「だわ」を使い過ぎでは.中公文庫の阿部知二訳にしといた方が佳かったのかな〜.

ちなみに,オースティンの生きた時期はだいたいベートーヴェンと重なる.本書の発表は 1816 年.およそ 200 年前.それにしちゃ全然古びてないな.日本だったらまだ徳川時代ですぜ.『蘭学事始』の頃だ.その頃に書かれた本,今でも読めますか?

*1: 遅ればせながら 英國戀物語エマ第二期メルダース編制作決定 おめでとうございます.

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