ぐる式 (貳) より引っ越し作業中.未完.

2007年5月6日日曜日

Noir #22 旅路の果て

黒霧香誕生

「この村の背後にそびえ立つ岩山の彼方,スペインとフランスの国境地帯,そこは如何なる国にも属さず如何なる地図にも載ってはいない.時に忘れられた場所,世界にはそうした場所が幾つかある.この村の向こうもその一つです.その場所は今では単に「荘園」とのみ呼ばれています.あなたは無意識のうちに「荘園」への道を辿られた.ノワールであるが故に.ここから先はソルダにとって言わば聖地.手出しすることは絶対のタブーとされています.だから彼らはあなたをこの村から先に行かせまいとしているのです.そうです,われわれはソルダの末裔,そして彼らもまた」 © トリスタン.「旅路の果て」は「荘園」への入り口.

とりあえず黒霧香で動作安定し」てねぇよ.あと三十分の我慢という時間制限に加えて村一つ潰さにゃ安定せん.というわけで,白霧香でスタート.一週間掛けてどこほっつき歩いてんのかと思ったら,なんとピレネー山脈の麓である. ランゴーニュ写本 という単語を刷り込まれていたせいで,「荘園」はてっきりプロバンスか北イタリアあたりかと思ってたが,ずっと西だった.しかし,どうやって来たんだろう.所持金はあるんか.ヒッチハイクでもしたか,それとも本能的にもっと恐ろしい手段を使ったか.海は見えないから内陸部なんだろうけど,ピレネーは東西 300km 以上あるからな〜.どの辺だろ.西ならバスクが近いし東ならアンドラがある.その中間には聖母マリアの泉と聖ベルナデッタで名高いルルドが

霧香の「荘園」入山を回避したいソルダの四評議員が作戦開始指令を出すと傭兵たちらしいのが村を襲撃するので,傭兵たちを雇っているのがソルダ四評議員と思わせたいのだろうけど,「荘園」への経路はガラ空きである.「行かせまいとしている」のではない,「行かせる」ように仕向けているではないか. 1) 傭兵たちを雇ったのはソルダ四評議員ではない.四評議員たちの手のものは次回霧香の行く手に立つ.今回の彼らを仕向けたのはアルテナさまである.村を襲わせた理由は? 定期的に配下の共同体を非常に大きな厄災によって襲わせることで,弛緩することを防ぎ結束と忠誠心を高めるという伝統に従った.あと上手く行けば白霧香ではなく黒霧香になった時点で「荘園」に迎えることができるかもと予測を立てた. 2) 傭兵たちを雇ったのはソルダ四評議員である.「荘園」のガーディアンを排斥し,霧香をいぶり出すのが目的.いぶり出したところを別働隊で仕留める (はず).いやいや,相手はソルダですよ.もっとヌケているに違いない (笑).

なぜか村長より能弁なトリスタン & マルグリット[さすがにイズーじゃなかった (笑).]夫妻に傭兵エーリヒ.なぜにドイツ起源の名前が? ひょっとして初期段階の「荘園」の位置設定はアルザス・ロレーヌ地方だったりするんだろか.それとも,ソルダの息が掛かった村というのは人為的に創られるもので自然発生的な成立史を持たないということなのか.佳く判りません (笑).

今回の明らさまな供犠のシンボル, 1) 霧香が着ている赤錆色のゲルマン風装束, 2) 出逢う村人すべてが恭しく挨拶を送る,この二点から,初めは霧香が「神を体現する犠牲者」[メキシコにおける人間の供犠.「供犠としての死」.

「その若者がテスカポリトカ (もっとも偉大な神の一柱) の役を演じていることはだれでもが知っており,どこで出会っても,みな彼の前にひれ伏し,拝んだ.

(中略)

この若者が優雅にみえるように,そして君主のような暮らしをさせるために,あらゆる配慮がなされた.

(中略)

死を授かる場所にくると,自分で神殿の階を登る.一段ごとに,一年の間ずっと奏でてきた横笛を一本ずつ手折るのである.最上段に登ると,死を与えようと待ち構えていた神官たちが若者に襲いかかり,石造りの板の上に投げ倒す.脚,腕,頭をしっかりと押さえて仰向けに寝かせ,黒曜石の刀を持つ神官が,若者の胸をぐさりと刺す.刀を抜いてから,刀で開けた傷口に手をさし込んで心臓を抉りとり,それをすぐに太陽に捧げるのである」.

(中略)

神の化身となった犠牲者だけは,神のように人々に囲まれて神のごとくに犠牲の台に登り,人々は生け贄が死ぬまで,この若者を見守るのである.

[ ジョルジュ・バタイユ "呪われた部分 有用性の限界", 中山元 訳, ちくま学芸文庫, 2003, ISBN4-480-08747-8, p. 57-59., (Georges Bataille "La limite de l'utile, fragments d'une version abandonée de La Part Maudite", 1976) より ]

]であり,実際に殺されるのが白霧香だと考えたが,どうもしっくり来ない.それも道理で,この儀式を「見守るもの」がいないではないか.いるとすればそれはアルテナさまの遠隔感応のはずだが,今回は一カットも出て来なかった.加えて,同じことをすでに 第二十話 でやっている.そこではクロエが執行者の神官であり,ミレイユが見守るものだった.じゃぁ,これは何なのか.いったんこのラインから離れよう.第二十二話が終わった段階では 1) 霧香の黒化 と 2) 「荘園」のエントランス・ガーディアンの滅亡 が確認される.単純に考えればトリスタンたち村人が犠牲になったということになるんだが,高揚感に欠けるのが難点.やはり 1) を反転させて供犠の対象となったのが白霧香だということに持って行きたいとなると,さてどうしたもんか.とりあえず,「荘園」守護村は白霧香の身体だということにしておけばどうだろう.クロエが引導を渡した 第二十話 で生贄になった白霧香は生身の身体を欠くという不完全なものだった.その反動が不安定性として現われる.これを固着化するためにはどうしても捧げものとしての物理的な身体が必要になる.かと言って白霧香の身体を切り刻むわけにはいかない.ということで要請されたのが身代わりとして血を流す身体である.つまり,「過剰」として一個の村全体が必要になる.う〜む,どうもしゃっきりせんですな〜.だいたい,最後のは逆じゃないの?

  1. part A サブ・タイトル前.音楽切れ目なし
    1. 霧香ナレーション. "les soldats". 0’20".
    2. 前話 終盤,コンビ解消の回想.「どうして?」という慟哭がミレイユに引き継がれて「この花は黒く染まることもなく,ただ萎れた.霧香はもう帰って来ない」〜どっかの山中で行き倒れる霧香. 第十七話 で初お目見えした "melodie" のピアノ・ソロ版.基本的には "melody - salva nos ver."[タイトルがなぜ "melodie" じゃなくて "melody" なのかはアポリアである.] のカラオケだが,テンポが違うしディナーミクもかなり違う. 1’52".
  2. part A サブ・タイトル後
    1. 息を吹き返す霧香.いかにも鄙びた佇まいの部屋.銃がある.無意識に手に取る[この回転式の銃は 前話 の後半で敵から奪い取ったもの.少なくとも二発は撃ってる.その後白に戻っている間に捨てたが,いつの間にか回収していたらしい.やっぱピレネーまで来ることが出来たのはその銃のおかげですか.].右手もだいじょぶ,ちゃんと動く〜霧香を自家に運び込んで介抱した初老の夫婦の入室〜トリスタンとマルグリット〜霧香に敬語を使い態度も極めて丁寧〜霧香の来訪を判っていたと謎言語. "premonition". 1’47".
    2. マルグリットに渡された赤錆色のゲルマン風装束に着替え,トリスタンに教えられた村の西の外れにある古い石碑を訪れる霧香〜石畳〜ちびミレイユに瓜二つの少女〜村人はみな霧香を見掛けると一礼する〜石碑に刻まれていたのは黒き手の処女たち〜ちびミレイユ'がボールを追い掛けて駆け込んで来る〜「わたしが殺したの」,「だってあなたはノワールですもの♡」〜トリスタン宅に戻る〜グラサン紺服の集団〜.オリジナルの "canta per me". 3’14".
    3. 部屋の中の黒 & 紺服五人を瞬殺するトリスタン,マルグリット,村長のチボー〜表に集まっている村人たち.外にいた二人は彼らが始末した〜トリスタン「ただいまの訪問者たちは le grand retour に背くものたちです.あなたがあの方に逢われることを好まぬものたちです.わたしたちは此処で大義と共に生きて来ました.そしてこれからも」〜霧香,訳が判らん〜霧香に跪く村人たち〜「申し遅れました,わたしたちはみなソルダです」〜霧香の表情 (マジヤバ). "premonition" の後半部. 1’30".
  3. part B
    1. (※) 冒頭に引いたトリスタンの講釈. 第十二話 B パートで使われていたポワンティリスム風. 1’21".
    2. トリスタンの講釈の続き. "les soldats". 0’13".
    3. トリスタンの講釈まだ続く〜「le grand retour」とは原初ソルダへの回帰を意味する〜が,すでに世界そのものとなったソルダの変革を好まぬものもいる〜顎髭評議員,四人の合意の元に作戦指令を出す〜この村は千年間「荘園」を護って来た〜トリスタンが語るアルテナさまの意図,「歴史の暗黒の最中,ソルダが地下に潜ったとき,地上の闇の中に取り残された二本の手. (ノワール) ソルダはこの失われた手を取り戻さねばならない.ノワール継承の儀式の復活こそ「le grand retour」の象徴なのです」〜位置に付く兵たち. "les soldats II". 1’54".
    4. (※) 戦闘開始〜霧香を「荘園」へ逃がそうとするトリスタンとマルグリット〜トリスタン,警告を無視して発砲,射殺される〜村長狙撃手〜戦闘が気になって仕方がない霧香〜別段防ぐ風もなく集団で進撃する村人たち〜兵士の一人が仲間から「エーリヒ」と声を掛けられる.ドイツ人がなぜ此処に?〜村長,ロケット弾を喰らって木っ端微塵〜煽りを喰らって倒れる霧香. 第十九話 B パートで登場した白玉分散和音のアップテンポ. 2’01".
    5. 身を挺して霧香を護ったマルグリット,機関銃に撃たれる〜ここで黒霧香化, 15 秒間で六人撃ち殺す〜見下ろすと炎に包まれた村〜真下アニメでは佳く出て来るような気がする燃えている人形,その側に脱げた靴[ちびミレイユ
      この人形と靴は,ちびミレイユ'のものである.この子も大義に殉じたわけだ.おまけで礼拝堂の正面に掲げられていた黒き手の処女たちの絵画.]
      〜礼拝堂も燃えている〜マルグリットの最期の言葉「それでこそあなた……」〜焼け落ちる村[また村が一つ死んだ
      納谷悟朗の声で「また村が一つ死んだ」ってな絵だな〜.千年もの間大義を護って来た村は滅びたわけだが大義そのものが死んだわけではない.たぶんに宗教的な匂いをまとうソルダであるから,新たに別の守護村を築くのでありましょう.]
      〜山を登る霧香〜いつの間にか夜明け〜「荘園」の入り口? で黒霧香で確定? "killing". 2’48".
  4. 比率
    • 17’00" / 20’40" = 82.3% (03’40").なんと 第二十話 を 3 秒上回り,音楽含有率最高記録を更新.ちなみに 1 曲当たりの平均時間も 1"51" で首位を更新.二位は 第二十話 の 1"46".

今回で二回目の "killing" は黒霧香の殺しのテーマということでエエのかな. "premonition" が二回.白霧香最後の足掻きということで,もう使われないかも知れない.

  1. 「この世界に出口はない 彼女の残した言葉 月光の慟哭 残花有情」.霧香は「荘園」の入り口にたどり着いたんだっけ,まだ一悶着あるんだっけ.一方一人語り残されたミレイユは? というのが次回.

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