「忘れとった.お前におれは殺せない」 © 平賀源内 (裏).
今度は第 1 幕 2 時間強で祝祭的全 2 幕約 4 時間弱.それぞれ The Rise and Fall of Gennai Hiraga というわけで,源内神興亡記.シュタインのマイスタージンガーが 4 時間半弱なので,かろうじて短い.でも,あちらは全 3 幕なので,もうヴァーグナーを笑えません (笑).
演出家自身が言う「過剰な演劇との格闘」は,疲弊してストイックかつひそやかになってしまった演劇界に苛ついている蜷川幸雄が殴り込むバフチーン的カーニバル的ハレ的バタイユ的蕩尽と逸脱 (をいをい).怒濤のヴィジュアルの物量攻勢に,ラブレー的 (笑).観客罵倒付き「智恵のない連中が智恵のある者を誹るときに使う言葉は,いつも山師だ.山師,山師,山師,他に気の利いた言葉はねぇのか! 下らねぇ大衆め.貴様たちが,そんなに下らねぇ見せ物が好きなら,尻尾を振っておれの周りに集まって来い.貴様たちの,下衆な好奇心にいくらでもエサを撒いてやる」.マスかきで始まる下ネタも圧倒的物量だが,歌の量も凄い.だが,第 1 幕でとくに感じたのだが,なんかコントを繋げたものみたいに思えるのはなんでですか.
舞台奥は一面の鏡張り.全員正座の前口上付き.中身はタイトルどおり平賀源内の一代記.ただし源内は表裏の 2 役.ウィリアム・ウィルソンかと思うた (笑).だもんで,蛙の意味も『ちんば蛙』かなと思ったが,まったく違いますな orz.鏡を利用した祝祭的蕩尽の「贖罪のいけにえ」あるいは「神の化身となった犠牲者」は,もちろん源内自身.自分でもそう言ってた.源内の長崎行,高松から水路で別府へ,その後九州横断で日田に抜けて,久留米,佐賀,んで長崎街道に入る.その後,大村,永昌 (諫早),日見峠を経て長崎に至るそうだ.歌詞では判らんけど,これは武雄・嬉野経由の陸路である.南側の肥前鹿島を経由する長崎本線の経路ではない.で,竜踊りって「龍踊」と書いて「じゃおどり」と読ませるんじゃなかったっけ.でも,舞台で鳴り物付きで龍踊披露するなんて (笑).源内 (裏) のナレーション「この頃,上方の歌舞伎狂言作者の並木正三『三十石艠始』 (さんじっこくよふねのはじまり) で回り舞台を考案」で人力回り舞台.小道具は黒子が動かし,人は足をくいくいさせて平行移動.第 2 幕冒頭の「講釈坊主志道軒」,裏源内の 6 分半に渡る長台詞,圧巻.
蛙合戦ってのは,産卵期におけるオス蛙のメスの奪い合いのようすを言うらしく,一茶の「痩せ蛙まけるな一茶これにあり」もこれに因んだものだとか.ヴィジュアルで言うと,おそらくホドロフスキの『ホーリー・マウンテン』序盤に出て来る蛙合戦に近いものだと思われる.んじゃ,この芝居の場合,メスが源内でこれを奪い合って最後に殺すんかよと思ったが,なんか絵的に違う気がするよな.
- 平賀源内 (表):上川隆也
- 平賀源内 (裏):勝村政信
- 青茶婆 (花扇):高岡早紀
- 大久保一学 (幼名長松) / 鈴木春信:豊原功補
- 松平頼恭 / 司馬江漢:高橋努
- 白石茂左衛門 (源内の実父) / 惣二郎安天連 (洗礼名の読みはアンドレ) / 鳥山検校 (金貸座頭のボス) / 田沼意次 / 入墨者い:六平直政
- (茂左衛門の) 女房お初 = 母 / 遣手婆 ほか:立石凉子
- 雲井太夫 (娘) / 笠森お仙 ほか:篠原ともえ
- 高井源之助 (教師) / 杉田玄白 / 将軍家治 / 桜田義好 / 幇間 ほか:大石継太
- 賀茂真淵:あさひ7オユキ
- 番頭い (京橋越前屋=現三越,以下同) / 本居宣長 / 植木売 / 前野良沢 / 秋田の家老 / 大名 ほか:福本伸一
- 彰城東吉 / 夢の市 / 紀伊国屋文左衛門 / 猿廻し / 鼻緒売 / 遊郭の客 / 佐竹義敦 / 大名 ほか:木村靖司
- 茶坊主 / 黒ン坊の扮装の町人 / 番頭ろ / 瓜売 / 将軍家重 / 菖蒲売 / 僧形の乞食 / 大名 ほか:冨岡弘
- 関所の役人 / 浅の市 / 大岡忠光 / 暦売 / 侍 / 遊郭の客 / 百姓 / 大名 ほか:二反田雅澄
- オワイ屋 / 揮を締めた盲 / 入墨者ろ ほか:大富士
- 長崎の老人 / 三井高光 (越前屋主人) / 七色とうがらし売 / 耳掻売 / 遊郭の主人 / 音羽屋多吉 ほか:飯田邦博
- 大久保大学 (一学の父,高松藩家老) / 甲秘丹の扮装の町人 / 番頭ほ / 乞食の老人 / 節季候の乞食 / 岡本理兵衛 (戯作版元) / 盲の行司 / 伊勢屋善助 ほか:塚本幸男
- 唐人 / 丁稚 / 綾の市 / 苗売 / 鰹売 / 遊郭の客 / 歯磨売 / 百姓 / 大名 ほか:堀文明
- 長崎の役人 / 小者 / 番頭は / ホニホロ売 / 花火売 / 子供 / 首斬り役人 / 百姓 / 大名 ほか:井面猛志
- 長崎の役人 / 小者 / 番頭に / 田沼の供 / 番太郎 / 金魚売 / 子供/口上の男 / 百姓 / 大名 ほか:篠原正志
- 関所の役人 / 青もの市 / 足袋売 / 土平飴 / トコロテン曲突 / 遊郭の客 / 団扇屋 / 百姓 / 大名 ほか:田村真
- 紅毛男 / ヤン・ガランス (カピタン) / 紙鳶売 / 与勘平 / 福屁曲平 / 百姓 / 大名 ほか:星智也
- 黒ン坊下僕 / 塩売 / 櫛拝売 / 遊郭の客 / 大男根男 / 百姓 / 用人 ほか:澤魁士
- 樽屋 / 冷水売 / 遊郭の客 / 四ツ目屋 / 百姓 / 大名 ほか:野辺富三
- 竜踊り / 丁稚 / 七草売 / 子供 / 百姓 / 久五郎 (源内晩年の付き人? 錯乱した源内に斬られる) ほか:西村篤
- 竜踊り / 丁稚 / 石見銀山売 / 熊 / 百姓 / 用人 ほか:川﨑誠司
- 竜踊り / 丁稚 / 宝船売 / 提灯売 / 子供 / 百姓 / 用人 ほか:本山里夢
- 竜踊り / 丁稚 / しゃぼん玉吹き / 百姓 ほか:鈴木重輝
- 竜踊り / 丁稚 / 煙草売 / 獅子舞 / 子供 / 百姓ほか:増田広太郎
- 竜踊り / 丁稚 / 鮒売 / 子供 / 百姓 ほか:谷中栄介
- 女声コーラス (三味線) / 夜鷹 / 柏崎太夫 / 子供 / 娘 ほか:羽子田洋子
- 女声コーラス (三味線) / 歌比丘尼 / 小夜野太夫 / 子供 / 娘 ほか:難波真奈美
- 女声コーラス / 枝豆売 / 初音太夫 / 子供 / 娘 ほか:太田馨子
- 女声コーラス / 腰元 / かぶろ / 子供 / 娘 ほか:蜷川みほ
- 女声コーラス / 腰元 / 米沢太夫 / 茶屋娘 / 子供 / 娘 ほか:今井あずさ
- 女声コーラス / 腰元 / 瀬川太夫 / 子供 / 娘 ほか:山崎ちか
- 加瀬山太夫 / 子供 / 瘡かき女 (廻し一丁で大活躍) / 娘 ほか:茂手木桜子
- 玉菊太夫 / 子供 / 娘 ほか:荻野美香
- 脚本:井上ひさし
- 演出:蜷川幸雄
- 音楽:朝比奈尚行
- 美術:中越司
- 照明:室伏生大
- 音響:鹿野英之
- 衣裳:小峰リリー
- 振付:広崎うらん
- 所作指導:花柳輔太朗
- かつらメイク:奥松かつら
- 演出補;井上尊晶
- 舞台監督:明石伸一
- プロデューサー:加藤真規
- 2008 年 11 月 26 日,Bunkamura シアターコクーン
- 企画・製作:Bunkamura
- 東京公演主催:Bunkamura
表裏源内のコンビは緩急自在でさすがだな〜.ただ,裏源内の音程の不安定さはちょっと (笑).六平直政の多様さは凄い.一学 & 春信@豊原功補が飄々とした佇まいで佳い.瀬川太夫@山崎ちか の圧倒的声量に支えられた歌はお見事.龍踊六人衆,あのあんま広くない舞台でよくも.凄ぇ〜.見物は長崎篇のお祭りと江戸の物売り合戦かな.まるで『江戸の呼売りの声』 (笑).
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