「水野さん,水野さん,棒高跳びの起源ってのはね.古代ローマ帝国の奴隷たちに発してるんですわ.人間の身長 1m60,その 2 倍の高さなら奴隷たちは飛び越えて逃げる恐れがある.が, 3 倍 4 倍の 6m88 なら,奴隷たちも越えて逃げることはできないだろうと,権力者がそう考えその城壁を作ったんです.あの城壁を越えれば自由がある,鳥になることができる,そう信じて奴隷たちは何度もその壁に挑みました.が,とうとう越えることはできなかった.東ドイツのニールセンはね,父親がベルリンの壁をよじ登ろうとして銃殺され,それで棒を持ったんです.ソヴィエト連邦のブブカもそうです.国外に一歩出れば KGB の厳しい監視の眼があり,新聞記者たちから不自由ではありませんかと聞かれ,何 6m88 を越えられない不自由さに比べれば問題ありません,そう言ってるんです.南アフリカ共和国黒人ブライアンもそうです.みんな自由が欲しかったんです,鳥になりたかったんです.早稲田の木村はね,あの部長のことですよ,東京陸上で非公式ながら 6m88 クリアしとるんですわ.ブブカたちはロサンジェルスで,早稲田の木村が来る,あいつがやって男たちの 3000 年の歴史を塗り替えるんだ,そう待ってたんです.それを,情熱を失ったから辞退したじゃ話は通らんでしょ?」 © 速水健作刑事.
今頃だが,今年の 1 月に録画してたもの.シンプル極まりない舞台,爆発する台詞,大音量 (音響も台詞も),汗びっしょりの俳優 (笑).叫ぶ俳優の会.シリアスもどギャグも大盤振る舞いの狂騒的台本.でも,基本はギャグ→シリアス.速水刑事以外は元全日本級というかオリンピック級のアスリートなのに,なぜかアジアの染み付いた四つ辻感の強いお話.殺人というか殺しは 2 件.モンテカルロで事故死した速水刑事の兄ユウイチロウ (これもオリンピック級の棒高跳び選手) と木村部長刑事の過去.および,大山金太郎が殺したとされている砲丸投げの五島出身のヤマグチアイコとそのコーチの件.後者の被害者は舞台に登場せず,水野と大山が二役で再現.二つの事件 (の捜査?) が平行的に進められて行く.
台詞のスピードと量は圧倒的に凄い.聞き取り難いぐらいに早い (笑).時間から言うと逆なんだが,遊眠社の舞台を思い出した (笑).全員歪んだ人間関係の中にいる登場人物たちのなかで唯一対になるリナクスがいない速水刑事,終盤では伝兵衛と同格の部長刑事に昇進しているが,なぜかタキシードを着込んでいる.演劇的空間に取り込まれましたか.
- 木村伝兵衛部長刑事 (元棒高跳びの選手.新宿二丁目のゲイ,タキシード男):阿部寛
- 速水健作刑事:山本亨
- 水野朋子婦人警官 (元 100m ハードル選手):平栗あつみ
- 容疑者大山金太郎 (元円盤投げ選手):山崎銀之丞
- 謎の男 (熱唱『なぜか上海』):若林ケン
- 作・演出:つかこうへい
- 音響:山本能久
- 照明:酒井明
- 舞台監督:菅野将機
- 企画・制作:つかこうへい事務所
- 1998 年,渋谷 Parco 劇場
ちょっと調べてみると,同じ『熱海殺人事件』というタイトルを冠されていても最小 6 最大 8 もの複数のバージョンがあって,なかには主役の設定がトンデモだったりするのもあるそうな.初演は 1973 年で,このバージョンよりも 15 年も前.ちなみに, 7/80 年代の映像は残ってないそうな.
以前に★☆北区つかこうへい劇団の『ストリッパー物語』を録画してたはずなんだけど見付かんない.消しちゃったのかな…… orz.
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