ぐる式 (貳) より引っ越し作業中.未完.

2006年11月14日火曜日

アントワーヌ・フェーヴル『エゾテリスム思想』

  • アントワーヌ・フェーヴル "エゾテリスム思想", 西洋隠秘学の系譜, 田中義廣 訳, 白水社 文庫クセジュ, 1995, ISBN4-560-05763-X, (Antoine Faivre "L'ésotérisme", 1992)

思わず別のところでガンガン 引用 しちゃったりしてるが,この本の対象はルネサンス以降なのでいわゆるデカルトの非合理的部分 (→種村季弘『怪物の解剖学』) にあるような「闇」を体系化しようとする試みを「エゾテリスム思想」と称するらしい.別の言い方だと,非合理的思考のヘテロクリットな現実化.十把一絡げに「オカルト思想」として胡散臭気に括ってしまっては「風呂の湯と一緒に中に入っている子どもも捨ててしまう恐れがある」.どうでもエエけど,面白いというかあまり見たことない比喩だな,これ.

基本要素は四つ. 1) 象徴的かつ現実的なコレスポンダンス, 2) 書物のように読み取らねばならない生きている自然, 3) グノーシス的想像力と媒体, 4) 変成体験.変容 (トランスフォーメイション) ではダメで,変身 (メタモルフォーズ) の意味をも伴った変成 (トランスミューテイション) じゃないとダメらしい.あと非必要条件の相対的要素として, 5) グノーシス獲得のためのコンコルダンスと 6) 伝授.あ〜,こりゃまんま『フーコーの振り子』に出て来ますな.

というわけで,ルネサンスから現代までの闇の思想史概観という体裁ではあるけれど,おなじみの名前がごろごろ.思想家を除外しても,ヒルデガルド・フォン・ビンゲン辺りから始まって,エーコは当然ながら,シリル・スコット,シュトックハウゼンまで.薔薇十字会員だったサティはもちろん,ノヴァーリス,リラダン,ヴァーグナー,ベックリン,モロー,スクリャービン,ストリンドベルイ,マッケン,イェーツ,シモンズ! 『音楽のエゾテリスム』の著者ジョスリン・ゴドウィンももちろん出て来る.索引がないのが惜しまれる (笑).訳注もしっかりしてます.

われらがパピュスに関するまとまった記述は 106 ページに

 幾人かの強力な人物がかなり異質で雑多な大衆を支配した.フランスではジェラール・アンコース博士 (別名パピュス 1865 -1916) が「オキュルティスムのバルザック」という異名——それほど多作であった——を得たが,本人はただの医師であり,研究者であり,実験家であると称していた.パピュスの『隠秘学基礎論』の刊行と彼の雑誌『イニシエーション』の創刊はともに 1888 年である.

とある程度.ディーリアスとパピュスの共著になるブックレット「解剖学」の刊行は 1894 年.

ディーリアスから離れて『フーコーの振り子』に接近すると,文庫クセジュから面白そうな本がいくつか出ている.

あとはコレ.

  • ヨーハン・V・アンドレーエ "化学の結婚", 付・薔薇十字基本文書 普及版 種村季弘 訳, 紀伊國屋書店, 1993, 2002, ISBN4-314-00931-4, (Ferdinand Maack "Chymische Hochzeit: Christian Rosenkreutz Anno 1459 nach der zu Straßburg bei Lazari Zetzners seel. Erben im Jahr 1616", 1913)

本編のほかに「薔薇十字の名声 (ファーマ・フラテルニタティス)」,「薔薇十字の信条告白 (コンフェッシオ・フラテルニタティス)」,「全世界の普遍的かつ総体的改革」,およそ 60 ページにわたる解説もあってお得.でも面白いかは…… ごにょごにょ.この ページ で紹介しているのは何かの間違いだと思うんだけど (笑).異端思想という点では『チーズとうじ虫』が最高に面白いが,これは粉挽屋のメノッキオが焚刑に処せられるというドラマが底にあるからな〜.

エーコからも離れてみると,「エゾテリックな言及が混じる見事な映画」として以下の四本が挙げられている. 1) キューブリック『2001 年宇宙の旅』 1968, 2) ジョン・ブアマン『エクスカリバー』 1981, 3) ラッセル・マルケイ『ハイランダー,悪魔の戦士』 1986, 4) ジョージ・ルーカス『スター・ウォーズ』 1977 とその続編,だそうで…….

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