「旦那の出ようであたくしは,鬼になります.蛇になります.ボテのかつらもかぶります」 © 佐藤和子.
第十三回公演 雪やこんこん チラシ表, NHKアーカイブス 保存番組検索: 芸術劇場 「雪やこんこん・湯の花劇場物語」.
『ロマンス』録画を観て,井上芝居ってこんなもんじゃなかったはずだと引っ張り出したが,ソースが VHS 三倍速なんで画質,音質ともに劣悪.波打つ画面によれよれモコモコの音声 orz.それでも熱中して観てしまうのは何故 (笑).調べてみると, 1988 年 1 月 17 日の放送だったらしい.ってぇことはなにかぃ,このテープはおよそ 20 年前に録画したんかぃ! よっぽど面白かったんだろうな,その後単行本[井上ひさし "雪やこんこん", -湯の花劇場物語-, 朝日新聞社, 1987, ISBN4-02-255805-9. その帯に曰く「書下ろし 昭和庶民伝第三部 雪はふるふる夜はふける 温泉劇場の楽屋裏 雪で足止め 旅劇団の 女座長の大芝居」.これって壮大なネタバレじゃ…… (笑).表見返しには舞台の配置図.裏見返しには第二幕第二場の原稿.これが真っ黒に修正されていて,読めないぐらい.昭和庶民伝の先行する二部は『きらめく星座』と『闇に咲く花』.]まで買ってる.舞台は「北関東のさる湯治場にある芝居小屋.もっとくわしくはその楽屋」で,時代は「昭和二十年代のおわり[第一幕第二場の勝次の台詞で昭和二九年というのが判る. ibid, p. 68.].十二月中旬」.いわゆる大衆演劇,義理と人情の股旅芝居,「諸国吹き分けの風に乗り,東西南北勝手次第,着がえも持たずにさすらうのがつとめの旅役者」中村梅子一座を率いる女座長中村梅子一世一代の大芝居という触れ込み.実はワトスン探し.金欠で「七転八倒になっちまった」中村梅子一座に関する話は,すべてお千代と女将の和子がいる場所で語られているというのは後で初めて判った orz.二幕四場.まずは先乗りで乗り込んで来ている久米沢頭取から中村梅子一座の登場,「金欠病でいまにもばらばらになりそうな一座」という状況呈示が第一幕第一場.次いで,三年前に旅役者を引退した女将の佐藤和子の登場で,梅子と和子が実は母子だという芝居を打って,和子がスポンサーになってその状況をなんとかしてくれそうだというのが第二場.共謀者は勝次と庫之介,騙されているのは他の座員一同.第二幕第一場は, 1) 梅子に感じ入った和子が「ほんとに」なんとかしてくれそうな気配, 2) 金欠病の芝居は実は和子をもう一度舞台に引っ張り出すための「軍略」で,和子 (と お千代) 以外はみんなグル.和子が動かないので「もう一狂言書きましょか」.騙されているのは和子 (と お千代).で,第二幕第二場は,ってな具合.起承転結に則ってますか (笑).最終場はどんでん返しが二回ある.ここでは「最初から祭礼の神輿で担がれっぱなし」だった和子がすべてを悟り反撃に出る.最後は大団円.と,まぁ,「掛け引き沢山」な芝居.となると,冒頭の傷入りレコード「嘘か真か」のリフレインが意味深.
なぜか録画では第二幕第二場の冒頭部分,pp. 145 - 148 の頭がカットされている.ここではストリップ女剣劇に首を盾に振らない和子自身が雇われ小屋主をクビになる (だろう) という状況説明がなされている.和子自身が土壇場に立たされてるという状況になっていることを説明しているので,ここを省いてしまうのはどうかと.
- 中村梅子 (座長):市原悦子
- 久米沢勝次 (苦心の頭取):草薙幸二郎
- 立花庫之介 (湯の花劇場楽屋番):麦草平 (現・壤晴彦)
- 秋月信夫 (芸熱心な二枚目の突ッころばし):池畑慎之介 (ピーター)
- 明石金吾 (江戸前の気風のいい女形):小野武彦
- 三条ひろみ (娘役):立原千穂
- 光夫 (お囃子方):宮川雅彦
- お千代 (佐藤旅館の女中):古閑三惠
- 佐藤和子 (女将):浅利香津代
- 作:井上ひさし
- 演出:鵜山仁
- 音楽:宇野誠一郎
- 美術:石井強司
- 照明:服部基
- 音響:深川定次
- 舞台制作:井上都
- 1987 年 11 月 (14/15 日),浅草公会堂
婆さんの早変わりを初め,市原悦子の大熱演お見事.芝居の中の芝居と芝居の中の日常の落差が強烈.「て〜つ〜!」と「庫之介さん,おかみさんは結局これを押しつけて行ってしまいましたよ.これ,どうしましょうかね」.浅利香津代の女将さんがまた凄い.ってな感じで満腹.芝居の中の芝居てだけで,どうしてこんなにオモロいんですかね.
- ところで,高崎駅でドロンしたという敵役の藤井総太郎は (芝居上で) 実在するのか?
- 和子の言葉使い,ひろみ「ちゃん」と ひろみ「さん」の使い分け.
- 縞のジャケツのマドロスさんは=縞の合羽に草蛙履き (第二幕第一場冒頭) のト書き:「……信夫,金吾,ひろみ の三人がまことに和気藹々のいい雰囲気で,股旅おどりの稽古に熱中している」 p. 99, が「千代の登場と同時に三人の様子がおかしくなる」 p, 100, など.
- 勝次と庫之介の内緒話:「そりゃそうだろうなぁ.生みの親が生きているという話を聞けば,だれだって肝ッ玉がでんぐり返しを打つわ」 (p. 24).
- ドロンの状況
- 藤井総太郎:高崎駅.持ち逃げなし.
- 名無しの集団:宇都宮.『股旅狸御殿』の衣装を持ち逃げ.
- 実際の舞台では,和子は梅子の了解を得てから庫之介も舞台に立たせることにする.脚本では梅子は事後承諾 (pp. 181-182).
誤植
信夫 三五の十八とソロバンが狂ったぬ. p. 106.
使われている唄
- 第一幕第一場
- むらさき小唄:〽流す涙がお芝居ならば (東海林太郎:昭和 10 年)
- ひばりの花売娘:〽花を召しませ ランララン (美空ひばり:昭和 26 年)
- 流転:〽男 命を みすじの糸に かけて三七 二十一の目くずれ (上原敏:昭和 12 年)
- 第一幕第二場
- お島千太郎旅唄:〽春の荒らしに 散りゆく花か (二葉あき子 & 伊藤久男:昭和 15 年)
- 第二幕第一場
- ひばりのマドロスさん:〽左様ならよと つぶやくように (美空ひばり:昭和 29 年)
- 越後獅子の唄 (美空ひばり:昭和 25 年)
- 名月赤城山:〽男ごころに男が惚れて (東海林太郎:昭和 14 年)
- 第二幕第二場
- 東京キッド:〽歌も楽しや 東京キッド (美空ひばり:昭和 25 年)
引用文献
- 長谷川伸全集 (『瞼の母』 p. 82)
- 泉鏡花全集 (『不如帰』 pp. 51-52)
- 真山青果全集
- 岡本綺堂全集 (『番長皿屋敷』 pp. 171-172)
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