「困っちゃうな,こまこ さん,村上さんは困っちゃうよ,助けておくれ,もう沢山だよ,おしっこの始末は」 © 村上さん.隣家の親父なみに饒舌な大家さん.
これが例の爪先歩きの実際か〜.登場だけで 40 分掛かるそうである.けど,こっちでは 2 分ちょいで,クレジットのとこだけ (笑).爪先はテーピングしているな.能舞台の「橋懸かり」の向こうはあの世だそうな.小町ものの本家は能だそうで,少なくとも七本あるそうだが,そのほとんどが小町=老婆になってからの話なんだそうである[草子洗小町,雨乞小町,関寺小町,卒都婆小町,通小町,清水小町,鸚鵡小町の七本.若い頃の小野小町を扱ったものは草子洗小町だけだとか.].こちらもそう.主人公は一言も喋らないし,他の登場人物たちが出て来るまでは舞台上で声が発せされることがないから,間を持て余したのか,緊張感に耐え切れんのか,テロップ[
- この劇中において老婆は終始舞台の上にありながら,一言も発することなく
沈黙 のうちにあって,<科白>として外化されることはない. - この物語は貧しいアパートの一室に住む老婆の,朝起きてから朝食をとるまでの時間に起る老婆の幻想とアパート内のさまざまな出来事から成立っている.
- 老婆は体を
なでる 風を衣にふくんでゆれている.衣は時の漂白を受けて白い.老婆は足を動かすことなく"足の指"で体を進めていき,そのゆるやかな歩調でこの劇の基本的なテンポをかたちづくっていく. - <小町風伝>タイトルについて.<小町>とは女性のはなやかさと同時に老いと孤独を象徴する日本の中世を生きた女性である.<風伝>とは<小町>で象徴される女の性のありさまが.血の血統ではないが風によってこの老婆に伝えられたというニュアンスをもっている.主人公は貧しいアパートの一室に一人住む老婆であり,その老年と孤独にあってなお幻想を生きていこうとする女の生存の断面を追求しようとしているのであり,それが<小町風伝>という名を用いた理由である.
- 老婆の見ている夢の場面が始まる.夢にうなされている自分と,それをゆり起そうとしているもう一人の自分の登場している夢.
- さまざまな人々が列になってあらわれる.人々は老婆の部屋を構成する家具や建具を持ち,老婆をとりかこんでいく.
- 老婆は多ぜいの人々や物の間で混然とした時間をすごす.静かな行列が老婆のまわりで交錯するうちに,家具や建具が吹きだるまのように置き去られていく.
- 老婆の貧しい部屋が形成される.
- 老婆は朝食の準備を進めながら昔の思い出を呼び起こしていく.レストランで彼女にプロポーズした男の思い出.
- 鍋の水に映った現実の姿を目にした老婆は,幻想の世界へすがるように古い蓄音機のハンドルをまわす.
- 遠い昔彼女へプロポーズした軍人があらわれ,彼が戦場へ征く日の思い出が再現されていく.
- 再び一人になった老婆は,隣の息子と幻想の中で逢びきしようと彼を導き出すための蓄音機のハンドルをまわし,幻想をかきたてる.
- "私は現実がいるない夢だけが必要だ"といった思いに沿って彼女の現実=部屋が解体し始める.医者を追い払った老婆は再び男と逢びきをつづけようとする.
- 解体され空になった部屋の奥から男があらわれ,二人は逢びきの場所へ向かって歩みだす.
- 二人は泉の水を飲み,幻想の中で愛を語る.幼い少年と少女になったり,蝶になったりしながら…… (音楽はラヴェルの『ダフニス』の夜明けのアレ).
- ただ一人になった老婆はただ一つだけ残った蓄音機に上がり,なお幻想をつづけようとする.音はきこえてこない.
- 自分をたしかめるように体を抱いてみるが,それが現実の自分であるのかどうか彼女にはたしかでなくなっている.
- 老婆 (こまこ さん):佐藤和代
- 少尉:井上弘久
- 村上さん (大家さん):瀬川哲也
- 携帯ラジオの男:青山守男
- 隣家の父:品川徹
- 隣家の娘 (姉):鈴木理江子
- 隣家の息子 (弟),逢い引きの男:大杉漣
- サチ子:森屋由紀
- 医者:笹島博之
- 看護婦:安藤朋子
- 村上の妻:北村青子
- フォークダンスの男:小野孝夫
- フォークダンスの女:石山順子
- 黒女:牛山君枝
- 黒女:真砂恵津子
- 黒女:枝元なおみ
- 黒女:竹内真樹子
- 小針和美
- 作・演出:太田省吾
- 舞台監督:辻上彰二
- 照明:辻本晴彦
- 音響:米田亮
- 1984 年,銕仙会能楽研修所,青山
意外と登場人物が多いんだな.動きはゆっくりだが (そうでないとこもある),物理法則まで変わるわけではない (笑).
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