「おれ,忘れない.ずっと聴いてたんだ,母さんと同じ音.ぞっとするぐらい,綺麗な音」 © 真火(まほ).
Soft Machine じゃなくて Soft Horn! そういや Soft Head (Hugh Hopper, Elton Dean, Alan Gowen, Dave Sheen) というバンドもあったな〜.というのはど〜でもエエが,ある種の音楽好きには興味深い内容.額に生えてくる「柔らかい角」からはバロウズを連想すべきか,それとも『フリクリ』か (笑) ってな感じで第一話が「はじまり・はじまり」なら第二話が「眼」,第三話は「耳」.鼻と口と皮も出てくるんか.
- 呍(うん)
- 音を喰い尽くす蟲.形状は蛞蝓に似ている.通常は森の中に棲息している.寄生するときは内耳の蝸牛内に蜷局を巻く.蛞蝓に似ているだけあって塩に弱い.寄生する場合は何故か片耳だけ.耳の構造に変化を与えない.
- 阿
- 呍の作った無音を喰う蟲.呍とともに行動する.塩は効かない.両耳に棲む.コレも耳の構造に変化を与えない.コレが沈黙を喰った結果として無が生じるために,その間隙を埋めるため音が集まってくるのか,コレ自体に音を集める働きがあるのか,どっちなのか,佳く判らん.結果として,見境なしに音を拾う.寄生体の額に大二本小二本の計四本の肉の突起を作る.それをアンテナ代わりにして音を集める.といった事態に.呍とともに行動するのなら,集められた音は呍の餌となり,その呍が作る無音が阿の餌となり云々と循環しそうだが.
いや,「興味深い」とは言ったが,その実,中身は佳く判っていはいない (笑).呍が片耳に入り,もう一方に阿が入って,宿主の内部で循環完結するんかと思ったが,阿はギンコの両耳に入って来たし.なら餌の無音は何処にあるかといえば,体外.え? ってな具合にソコで引っ掛かって先へ進めなくなった (笑).単に蟲の活動範囲を体内限定から周囲までを含めてしまえばエエだけなのかも知れんけど.
興味深いと言えば.その一.雪の中での無音に近い状態とか腕の筋肉が振動する音とかだと,ケージがスタンフォード大の無響室で体験したという「自分の体内を循環する血流の音」を聞いた話を思い出す.ある種の実験音楽そのままですな.そういや,やっぱケージがどっかのパフォーマンスかなんかでやったという,喉にコンタクト・マイクを付けてコップの水を飲む音を拡大して云々って話,あれってやっぱ 阿 にとっては「居心地が悪い音」を拡大してるんだよねぇ.
興味深いと言えば.その二.獣の音,昆虫の音.あぅ,スクリャービンの昆虫ソナタとかよりも (笑),可聴帯域以外の音楽の方を連想しちまったです.スコラ哲学期の音楽は「ムージカ・ムンダーナ (musica mundana)」,「ムージカ・フマーナ (musica humana)」,「ムージカ・インストゥルメンターリス (musica instrumentalis)」の三つに分類されていて,それぞれ,マクロコスモスの音 (天体の進行音など),ミクロコスモスの音 (人間の精神や肉体を律する),現象として鳴り響き耳に聴くことのできる音*1となる.聴こえない音楽二種ってのは,たぶんギリシア起源のピタゴラス学派の影響をそのまま引き継いでいるものと思うけど,「聴こえない音楽」というのも,昔はちゃんと存在していたわけだ.まぁ,その裏には,音楽は世界の調和の要因であり結果であるとする神さまが聳え立っているんだが.っつ〜か,要因と結果の可聴的顕現が音楽であるということだが.
白沢村長の孫真火(まほ)の名無しの母親も同じく 阿 に集られて命を落とした.この母子が聴いていたのが「ムンダーナ」の一部だとしたら,こりゃ一度は聴いてみたいよな〜.阿 が生やす角は可聴帯域への変換器なのかも知れんけど,それでもいい.変換されなくて脳に直接流入するんならもっと佳い.阿 の寄生を融く方法は 阿 が耐え切れなくなるまでフマーナを不断に与えてやれば佳いらしいことが判ったので,そちらは安心 (笑).
蟲.虫の正字.『字統』によれば「足有るもの,これを蟲と謂ふ.足無きもの,これを豸(ち)と謂ふ.三虫(き)に従ふ」 (『説文解字』一三下) とある (p.593).昆虫の総称.毛羽鱗介(もううりんかい) の総称として用いる.毛羽鱗介とは『漢字源』によれば,毛もの羽もの鱗もの殻もの=獣鳥魚貝の意.
呍という字は『字統』にも『漢字源』にも発見できず orz.「云」は『字統』では「雲気のたなびく下に.竜が尾を巻いている姿が見える形」とある.『漢字源』では「口の中に息がとぐろを巻いて口ごもること」 -> 「息や空気が曲折してたちあがるさまを示す」とある.形状からの発想か.示される字形は明らかに「吽」ではないが,「一切衆生の八音は,阿に生じて吽に収まり,阿吽の間に包摂される」という意味では無関係ではない (かも知れない).宮商角徴羽が五聲,絲竹金石匏土革木が八音.漢字では自己詛盟を踏まえて神に告げ祈り誓約するときの神の側からの反応を「音」という.
- 憑物が落ちたことの可視的表現のようにも見える結果としての,真火(まほ)から落ちた「柔らかい角」.報酬として受け取ったギンコ,どうするんだ,それ? 何か蟲落としの薬の原材料にでもなるのか.
- 「まほ」と読む「真火」には「摩倍」=「真秀 (もっともすぐれた)」の意味が込められているのかいないのか.無学なもので判りません. 片桐姫子 (片桐姫子 - ぱにぽにWiki - livedoor Wiki(ウィキ)) の「マホ (まほ)」とは,たぶん「マキシマム無関係」.
- 「母が子に聞かせる音」=「子が母に聞かせる音」=「母が母である音」については,余裕がないのでスルーということで.こんだけ書き散らしておいて「余裕がない」もへったくれもないが.
『灰羽連盟』か『キノの旅』か
以前「これも『キノの旅』だな」と書いたら, シェラさん から「強く同意する」とのメールが届く.なんでも「『灰羽連盟』に似ている派」と「いや,絶対『キノの旅』だ」派の二派に別れて血みどろの抗争を繰り広げているそうである.シェラさんは「キノ派」の部隊長として日夜「灰羽連盟派」折伏に忙しいらしい.いやぁ「レキ (マティルド) はおれだ!」とか叫び出しそうなヤツとかその辺にいそうだし,「灰羽連盟派」って武闘派なのかねぇ.
ラッカもレキも局外者や観察者という立場じゃないのに対し,ギンコやキノは巻き込まれるとしても,あくまで第三者的っつ〜か,よそものっつ〜か,通りすがり / 稀人 / スパイ / 撹乱者 / 語り手として巻き込まれるんであって,身も蓋もない言い方をすれば,あくまでアメリカ文学的歩いている神さま.掛かるが故に『キノ』.と思うのであった.と書いたら,そのうち「灰羽連盟派」から銃撃喰らって殺されるかも知れん (笑).
音を喰い尽くす虫
音を喰い尽くす虫としては,ほかに「きくむし」というのがいる.自然に存在する種ではなくて,アメリカの連邦環境保全委員会航空機騒音対策部第五研究所が開発した新種のダニである.ある種のダニとシマウマを交配させて生まれた「きくむし」は体重のほぼ数万倍の容量の「音」を「聞く」能力がある.航空機騒音を周辺住民が聞く前に,それを聞いてしまうものを存在させることによって騒音をなくそうというのが開発の方針.周辺住民に騒音が聞こえるのは,それ以前に誰もそれを聞こうとしなかったからである.
[ 別役実 "虫づくし", 烏書房, 1983, pp. 143-146, 「27 ●きくむしについての考察」 より ]
前掲書には「かぐむし」の存在も明記されている.蟲の世界にも対応するものがいるとしたら,今後出てくるかも知れんが,あんま綺麗な絵になりそうにないな〜 (笑).
*1: 皆川達夫 "中世・ルネサンスの音楽", 講談社現代新書, 1977, 1987, ISBN4-06-115872-4, pp.29-30, ボエティウス「音楽の三分法」 (ANOTRDMF MFBL279; [Tractatulus de musica] from "Florence, Biblioteca Medicea-Laurenziana, XXVII.d.9, ff. 143v-145r")
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