国盗人
「世の中の下らぬ喜び一切を憎悪してやる.もはや悪党になるしかない」 © 悪三郎.えと,グロスター公リチャードとしての出典は「I am determined to prove a villain and hate the idle pleasures of these days.」か.
元ネタは『リチャード三世』.だが,蝉の声の中,客先中央奥から日傘の女 (白石加代子) がゆっくりとやって来て舞台に上がる.転がっている面一つ.能面ではなくて狂言面の 武悪 だと思うが佳く判らない.それをしげしげと覗き込んで「夏草やつはものどもが夢のあと」.これが召還の呪文となって,日傘女の眼前で繰り広げられる二時間 (たぶん大胆にカットしている) の大活劇.「人生は歩く影法師.哀れな役者」の芝居が終わると再び「夏草や」.面を置いて日傘を差し,来た方を逆に消えて行く.耐え難いほどに沸き起こる蝉の声.面が見せる=魅せる一幕の人間喜劇.う〜ん,『ドグラ・マグラ』だ (笑).舞台は意外に軽快で厭きない.久し振りに視た 白石加代子,老いたりとは言えさすがに怪物の名は伊達じゃぁありませんでしたねぇ.本編の主人公は悪三郎=リチャード三世ではあるけど,そちらでも四役こなすだけでなく,劇的なるものへの導入と解放も司るなど,タイトルは白石加代子『国盗人をめぐって』でもエエんでない? (笑)
- 悪三郎 (白薔薇一家の三男[ヨーク家グロスター公リチャード]):野村萬斎
- 善二郎 (白薔薇一家の次男[ヨーク家クラレンス公ジョージ リチャードの次兄]),右大臣[トーマス・スタンレー男爵],理智門[ランカスター家リッチモンド伯ヘンリー・テューダー]:今井朋彦
- 左大臣[ウィリアム・ヘイスティングス卿 (初代ヘイスティングス・オヴ・ハンガーフォード男爵)]:大森博史
- 杏 (赤薔薇の王子の妃[アン・ネヴィル 故エドワード王太子妃]),王妃 (白薔薇王・一郎の妻[エリザベス・ウッドヴィル イングランド王女、エドワードの妻]),政子 (先代赤薔薇王の妃[ヘンリー六世妃マーガレット・オブ・アンジュー]),皇太后 (悪三郎らの母[セシリー・ネヴィル ヨーク公リチャードの妻,リチャードらの母]):白石加代子
- 久秀 (悪三郎の腹心[バッキンガム公 リチャードの腹心]):石田幸雄
- 一郎 (白薔薇の王[ヨーク家エドワード四世 イングランド王、リチャードの長兄]),市長:山野史人
- 太郎冠者:月崎晴夫
- 他:小美濃利明,じゅんじゅん,すがぼん,坂根泰士,土山紘史,時田光洋,平原テツ,盛隆二,大城ケイ,大竹エえり,萩原もみぢ,黒川深雪,福留律子
- 作:河合祥一郎
- 演出:野村萬斎
- 作調:田中傳左衛門
- 美術:松井るみ
- 衣裳:コシノジュンコ
- 照明:笠原純
- 音響:尾崎弘征
- 技術監督:眞野純
- 笛:福原友裕
- 囃子:梅屋小三郎,古寺正憲
- 2007 年 7 月 12 日,世田谷パブリックシアター
有名な台詞「A horse! a horse! my kingdom for a horse!」,これは「馬じゃ,馬じゃ! 馬を寄越せば国をくれてやる!」.お得意の洒落や地口も気付いただけで数カ所.以下は杏と悪三郎の最初のツー・ショットから.
- 杏 忌まわしき地獄の手先,消え去るが佳い! 疎ましい鬼!
- 悪三郎 麗しき天女
- 杏 お前ほど厭わしいものはない
- 悪三郎 お前ほど愛おしいものはない
- 杏 消えておくれ
- 悪三郎 聴いておくりゃれ
- 杏 お前の犯した悪行の数々
- 悪三郎 身共に掛けられし濡れ衣の数々
- 杏 思い出すだにおぞましい
- 悪三郎 思い出さぬが望ましい
- 杏 この怨み,必ず晴らしてやる
- 悪三郎 この汚名,必ず晴らしましょう
- 杏 観念して地獄へ堕ちるが佳い
- 悪三郎 観念して身共と恋に落ちるが佳い
で,『リチャード三世』と来りゃミステリ・ファンにはやっぱ『時の娘』でしょう (笑).『リチャード三世』は (も) 持ってないので,久々に 再読.
結城座
先月に開かれた Le 61e Festival d'Avignon に正式招聘された 結城座 が,人間と人形を混在させたジュネ Jean Genet の『屏風 (Les Paravents)』で オープニング・アクト.
タイム・コードのベースがこちらでは「呼吸」であるのに対し,あちらでは「心拍」であるなど面白い話が聞けた.あと,寛永十二年旗揚げの伝統的人形劇団であるにも関わらず,人形遣いはその伝統の上に胡坐をかくことなく,必要とあらば禁じ手封じ手も連発するなど,柔軟なところもちゃんとあるのですな〜.
0 件のコメント:
コメントを投稿