抽象舞台芸術の極北と言われている能の諸作品を近代劇に翻案/再構成したもの.「(能のいくつかの作品の) ミュトスを枠組みとして借り」た劇作品集[倉橋由美子 "わたしのなかのかれへ", 講談社, 1970, p. 338.].他に『邯鄲』,『綾の鼓』,『卒塔婆小町』,『
道成寺, 1988
元ネタは安珍清姫伝説.怨霊が梵鐘を小道具に使い,蛇に変身したり火吹きしたりして大暴れする話→踊り子と称する女詐欺師が梵鐘代わりのバカでかい衣装箪笥の売買を妨害した挙げ句に勝手に成仏する話.アパートの管理人はむろん室田文明相当である.ワキは誰? 住僧は古美術商の主人? シテである清子が住むアパートの管理人? どちらも違うよな〜.ここで人間離れしてるのは清子だけだ.
- 主人:仲谷昇
- 清子:山下智子
- 男客 A:小泉博
- 女客 B:福田公子
- 男客 C:松村彦次郎
- 女客 D:田根楽子
- 男客 E:関時男
- 管理人:坂本長利 (『土佐源氏』の人)
- 演出:村田元史
- 美術:倉本政典
- 照明:浅沼貢
- 音楽:三谷礼二
- 効果:山北史郎
- 佐藤正隆事務所公演
- 1987 年,三百人劇場
鐘代わりの衣装箪笥って決闘広場みたい (笑).だけど,あくまで大道具.前面には出て来ず,すべて言葉で処理されるのが三島的.内部の四方が鏡張りの大箪笥って,なんか江戸川乱歩的なイメージだよな〜.
葵上, 1995
元ネタは『源氏物語』.生靈が跋扈して生者を苦しめるも努力の甲斐なく法力によって浄化される話→やや捻った方法で,元ネタどおり生者を取り殺す話.元ネタでは葵と六条御息所の間には直接的かつ一方的なな対立があったが,こちらではなさそう.むしろ光源氏に対するベクトルの方が強調されている.それゆえか,こちらでは本来出て来ないはずの光源氏が出て来て,看護婦が導入するエロスを六条御息所 (の生靈) とともに濃密に盛り上げる.看護婦が導入するのはもう一つあって,死 (の天使) のイメージ.この看護婦も実は六条御息所の分身じゃないかという気もする.
- 看護婦:松浦佐知子 (お懐かしや)
- 若林光:堤真一
- 葵:松本紀保
- 六条康子:佐藤オリエ
- 演出: David Leveaux
- Design: Vicki Mortimer
- Lighting: Yuji Sawada
- Costume: Hanako Kurosu
- Sound: Gan Takahashi
- t.p.t 公演
- 1995 年,隅田川左岸劇場ベニサンピット
お〜,多分にこってり味だが,これは何となく倉橋由美子の怪奇掌編を思わせる (笑).舞台は全体的に暗いので,ときたま明るくなるシーンが映えて印象的.
班女, 1995
元ネタなしの世阿弥オリジナル.ハッピーエンドで終わる狂女の恋→やはりハッピーエンドで終わる狂女の恋.だが,意味合いは全然違う (笑).本来は花子=班女の恋煩いが吉田の少将との再会=ハッピーエンドになるところが,こちらでは症状がさらに進行していて班女は再会しても吉田の少将とは認識できない.花子は吉雄ではなく実子を選ぶ.そういう不動点に達したという意味でのハッピーエンド.これがレズビアン的色彩を帯びるがゆえに,まさに『禁色』にして班女鎮魂曲.
- 老嬢 実子:佐藤オリエ
- 狂女 花子:松本紀保
- 青年 吉雄:堤真一
- 演出: David Leveaux
- Design: Vicki Mortimer
- Lighting: Yuji Sawada
- Costume: Hanako Kurosu
- Sound: Gan Takahashi
- t.p.t 公演
- 1995 年,隅田川左岸劇場ベニサンピット
入祭唱はバッハの無伴奏チェロ組曲第五番ハ短調 BWV1011 から第二曲のアルマンドが使われている.『Kurau Phantom Memory』の 一シーン のようなたくさんの蝋燭=精霊流しに眼を奪われる.ここに待つ女=班女=班婕妤と云われし女永眠す.聖体拝領誦は無伴奏チェロ組曲第一番ト長調 BWV1007 から第一曲のプレリュード.
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