「わたし,頑張ったんだ.わたし」 © コーラム.
今度は アニマクス.もう何回目すか,これ.毎年一回は観てるな. DVD も買ったしいつでも観られるのに,なぜか放送があると観てしまう.んで,観るたんびに判らなくなって来てる.と言いながらも,毎回毎回『空の青さ』で胸を掻きむしられている.この天上的なオンド・マルトノは,やはり最高です.
『Яesurrection』は六枚組.う〜ん,魔が差したとしか…….『ぱにぽに』,もうちょっと待てば通常版一巻と第二巻が出るのに,というのを帰宅してから知った orz.
ほぼ一年振りである.そんときの メモ.のわ〜,のっけから無伴奏『シアンの歌』だったのか.破壊力あり過ぎ.ヴォーカル・パートで 1’20",タイトルが出るまで 2’00" ちょうど.ここで一気にパルム界に引きずり込まれる訳である.『マイスタージンガー』や『フィガロ』より圧倒的に速いじゃん.
ってな感じで頭の方はすっかり忘れてるぐらいだから,没入しましたよ.こういうとき低処理速度と小記憶容量の頭だと,とうの昔にリセットされてるから,新鮮な気持ちで観ることができるのでたいへんお得ですね (笑).子どもの頃の「わくわくしながら観る」感じに近い.いや,もはや「わくわく」はあり得ない気もするんで,「ひくひく」かも知れんけど (笑).
前回も言及してたけど,今回真っ先に思ったのは.このお話は一言でいってしまうとパルムの「憑物落とし」ということになっちゃうんだよな.修行が足りません.いや〜,文字にしようとすると軽薄な言葉しか出て来ん.ポポから生まれた無償の愛がパルムに伝わって,それが世界を壊しかねないほどに傷付き腫れ上がったコーラムの死せる魂を癒して解放した云々とか.
palme というのはフランス語でシュロの枝 (葉) や古語でヤシを意味する.シュロの枝から派生して,それを与えられるような「栄誉」も意味する.コーラムの「わたし,頑張ったんだ」という言葉への返答にもなっているわけだ.エンディングですきっと立っているパルムの樹は,頑張ったけど報われなかった人たちの祈りを救い上げる救済の樹だ.ということにしとこう.ついでに星も一個増やしとこう.
本編中アレンジを替えて何度も出てくる『シアンの歌』,これは,「愛を失ったのだから」「思い出をなくしに行く」という問い掛けの歌だったんですな.なかむら監督の歌詞は,むしろコーラムの方を指してるようにも思えるが,世界を失う=愛を失うとしてしまえば問題ない (笑).ってか,両方に当てはまる.その幾度となく繰り返される問いへの答が『空の青さ』の「すべて失う今でも 心は君に」.お〜,最低でもここを抑えておけば佳いわけですね?
水,あるいは水中のシンボルが満ち満ちている地上界はステキ過ぎる.俯瞰もスケールがドでかいので「わくわく」あるいは「ひくひく」感増大に直結してる.細部と黒が潰れ気味なので,もっと大画面の高画質で観たいよ〜.電柱と電線は『serial experiments lain』と言いたいところだが,やっぱ宮澤賢治かな.小さなマンドリンぐらいの大きさの五弦リュートを弾くポポの右手の絵は凄かったですな.二回目はひょっとして音とぴったし合ってない? 観てて快感.
なんか画面が暗いなと思って ネコ版 と比べたら明らかに暗い.どうしたんでしょ? ひょっとして,ところどころマスキングもされている?
「ポポ.ぼくは樹に戻るけれど,ポポが何処にいてもずっと君を見守っているよ.いつでもぼくは君といっしょなんだ」 © パルム.
『ファンタジックチルドレン (公式)』で視聴者をエエように小突き回している なかむら たかし 監督の 2002 年作品.いや,もう,なんちゅ〜か,強烈.エグ過ぎて,ルンパランパ・ケルルン博士みたいに「……ステキです!」と一言叫んで絶句するしか.
主人公のパルムは,クルップの樹から作られクロスカーラを燃料として動く人形.制作者のフォー博士の細君シアンと精神的に強く結びついていたが,シアンがなぜか狂を発し死亡.精神的支柱を失ったパルムは木偶に戻るというか長らくシャットダウン状態.そこへ現れるのがコーラムなる女戦士の彷徨えるオランダ人的魂で,彼女との出会いを切っ掛けにパルムはリブート.ニーベルンゲンの指輪ならぬ「トート (天界) の卵」とやらをタマス (地底) へ届けるよう託される.博士はコーラムを追ってきたモヒ族の男衆に殺害される.一人旅立つパルム,といった感じなのだが,もうすでにこの段階で人死にがある.その前にも赤モンガラに異様な反応を示すパルムの姿が描かれるんだが,これ,右足首は引き千切られるわ,首は折れとるわで,壮絶.だいたいパルムの最初の登場時はジャンクだし.
リセットされた状態,つまりは聖なる無垢の状態から旅に出て,まぁいろいろあって「人間になりたい」との欲望を発する機械となる.これへの契機となったのがヒロインであるポポの存在なのだが,これがまたヘルガ同様というか,生母に虐待されているという悲惨な状況.スタッフはとことん虐める.
ここでの世界は,天界であるトート,地上界であるアルカナ,地底界であるところのタマスという三層構造.ちなみにパルムの初期状態の立ち位置はアルカナ.地上界なのだが,空を遊泳する赤モンガラや巨大クラゲなど,水のシンボルで充満しとる.タマスに住んでいるのはソル族だが実質的にはソーマなる巨大なクルップの樹が支配する世界で,太古の文明の記憶が知能であるソーマは己が枯れはじめているので,この地底世界を再フォーマットして己が作り出した人間であるラーラに与えようとしているが,作り出したラーラには魂を欠けており,それを補填するにはトートから火であるところの万物を作り出すエネルギーを持ってこねばならず云々.パルムはソーマに卵を届ければ人間にしてくれると思っているようだが,その契機は何だったっけ (笑) (あとで見返してみたら,トトの石柱から地底へおりる直前のサワダストの言葉だった).ってか,もう判らん (笑).初期の無垢状態から時間が経つにつれ,パルムは成長しているはずなんだが,これがまた身勝手かつサイコという強力二本立てで.そういや,ヘルガもポポも,自分では動こうとせんな.あ,ポポは最後の 30 分は自らの意志で動いているのか.
実はパルム側にはもう一本ラインがあって,これが自分を拒絶している親父からの愛に餓えているコーラムの怨念というか怨霊というか,これがパルムに取り憑いて突き動かしているともいえる.こっち方面から見れば,最終的にコーラムは成仏しているんだが.ってか,だいたいが主要な登場人物,シアン <-> パルム,ガンテル <-> コーラム,ガラ <-> ポポ,コーラム <-> シャタ,いずれの親子またはそれに準ずる関係に於ける精神的交流も破壊されているんだよな〜.
ネコの 紹介文 では
病んだ妻のために、夫はクルップの樹を使って人形を作った。パルムと名付けられた人形はやがて人間の心を学び取っていく…。人間になるために、地底世界を目指して旅立った木製人形の冒険を描いた冒険ファンタジーアニメ。
とあるんだが,一般的にいって「冒険ファンタジー」ってどんなん指すのか知らんけど,そこから連想されるものと,これを観た感じは,たぶん違うんじゃないかと思う (笑).なにせ,『天たま』で『彷徨えるオランダ人』で『裏銀鉄』で『プロメーテウス』で『ニーベルンゲンの指輪』だし.おまけにクライマックスというか最終段階は,樹木の巨大コード化ですよ,まるで『Akira』か『工事中止命令』みたいな.巨神兵に見えんこともないし.不安の立像であるボーラはまるで閻魔かぃ.
とまぁ,こんな感じの 136 分強のエグい作品.久し振りに DVD 欲しいかも,と思った (笑).
途中,なんかみょんみょんいってるんで『トゥーランガリラ』かぃと思ったら,ほんまにオンド・マルトノだった (笑).無伴奏の OP は途中 2 回挿入され (2 回目を歌っているのはパルム?),そして ED は 新居昭乃さん,まるで「夜の解放」というか「夜歩く」みたいな歌唱は,まさにぴったし.音楽も現代音楽してて非常にエエ.
「クルップの樹から作り出したお前だ,油が切れれば,日に曝され,根を張り出し,裏の樹のようになる.元の樹に戻るのはいいんじゃが,お前の閉じた記憶を消せない以上,それがどう影響するのか.クルップは土壌に埋まっている古い文明の残骸から,記憶の粒子を吸い上げ成長する植物だ.グロテスクな化け物になりかねん」 © フォー博士.
クルップの樹の設定は,北村想の『寿歌西へ』にそっくりだな.樹木になるってのは,まるで小田豪鮎之介ですな.
「クロスカーラはこのアルカナの天上を回る太陽と同じ力だ.お前の閉じた機能を目覚めさせ,生き続けさせる.探し続けた樹液だが,もういい.赤モンガラを追い掛けたり,あの人 (コーラム) をシアンなどと.生きようとするお前をわしには止められん.いいな,パルム,それを届けてやれ.失った使命を,あの人のために,お前のために見付け出せ.あの人が与えてくれた命だ.なぁ,シアン,こうするより他に,わしに何ができる.いいか,あまり日に当たらんようにな.そして,いつかコートプルアーラへ行ってやれ.シアンがお前が見せたかった美しい故郷だ.目を覚ませ,パルム,目を開けろ.地底へ行け,パルム.タマスへ行け,パルム」 © フォー博士.