ぐる式 (貳) より引っ越し作業中.未完.
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2009年7月16日木曜日

井上ひさし『道元の冒険』2008

「人生は夢,夢こそ人生.その人生を誰がたかが単なると言えるか.そして仏法の成り立ちもまた夢と同じことなのだ」 © 道元.

Bunkamura: 道元の冒険

何か『珍訳聖書』 (1973 年初版) を読んだときのと雰囲気が似てるなと思ったら, 1971 年初演という,比較的古い作品だった.翌日の『表裏源内蛙合戦』はそれより古い 1970 年の初演.

本編のみだと,およそ 3 時間弱.今まで観たうちで,いちばん歌の分量が多いかも.ってか多過ぎ.禅宗日本曹洞宗開祖道元の半生記とみせかけて実は…….その半世紀を見ているのが,阿部寛演じるもう一方の婦女暴行と結婚詐欺で捕まってる男.こいつももともと宗教者だという話だが,いわゆる胡散臭い新興宗教者ですか (笑).でも足してちょうど一人前,というか道元の失われた半身みたいな感じがするのは何故か.冒頭の Gong は梵鐘を模してると思うんだが,それならもっとそれらしい音響にしてくれ.鐘の音じゃなくて,パーカッションにしかに聞こえんよ.いきなりバスガイドが出てくるんだが,これは単なる案内役というか導入役ということでエエのか.ちなみに,場所は宇治の興聖宝林寺,日時は 1243 年 4 月ということで,この年は道元が越前に下向した年にあたる.阿部寛は 2 幕めも出ずっぱりなんだが,ほとんどステージ左で座禅組んでるだけ.座禅自体は 1 幕の後半以降ずっと.これは開山七周年記念の余興「道元禅師半生記」が眼前で演じられている,ということらしい.道元の南宋渡航以降が第 2 幕.『座禅は随処』は,メシ喰うのも風呂入るのもこれ弁道,っつ〜こってすな (笑).四斗樽に馬鈴薯〜大豆〜芥子粒・胡麻粒〜塩〜水.なんかエッシャー的な無限のお話ですか.塩というのがよく判らんが,溶かした後で分離することも考えてあるんだろか.道元=親鸞=日蓮>栄西.栄西の政治権力日和見主義を批判している……ですかね.当時でも相当の批判があったらしい.ケツは時間的に後の方に収束してしまう (笑).

  • 主として道元に扮する男 / 男 (婦女暴行罪 + 結婚詐欺で拘置中):阿部寛
  • 主として懐奘 (道元の右腕補佐役) に扮する男 / 精神分析医A / 良観 (母方の叔父,延暦寺高僧.良顕?) / 豪雲 (比叡山僧兵隊長) / 公円 (比叡山天台宗座主) / 栄西 (日本臨済宗開祖) / 如浄 (太白山天童景徳寺) / 親鸞:木場勝己
  • 主として義介 (禅僧団経理部長格) に扮する男 / 警官 / 赤橋政方 (鎌倉幕府六波羅治安判事) / 学生A / 青年道元:北村有起哉
  • 主として義演 (調理場主任) に扮する男 / 精神鑑定医B / 正覚尼の信男 / 源実朝 / 老典座 (阿育王山鄮峰広利寺,宗五大禅寺の一つ) / 衆僧 / 日蓮:大石継太
  • 主として義尹 (後鳥羽上皇第三皇子,道元の秘書役) に扮する男 / 鷹司兼平 (近衛府中将) / 学生B / 明全 (栄西の弟子) / 読書人 (先生) / 衆僧 / 壮年道元:高橋洋
  • 主として禅僧一に扮する女 / 彩雲 (僧兵) / 少年僧A / 姑娘 / 衆僧 / 帝:神保共子
  • 主として禅僧二に扮する女 / 少年道元 / 赤橋の家来 / 姑娘 / 衆僧:栗山千明
  • 主として禅僧三に扮する女 / 正覚尼 (実朝の元奥方,後鳥羽上皇の縁続き) / 男の妻 / 姑娘 / 衆僧 / 貴族A:横山めぐみ
  • 主として禅僧四に扮する女 / 玄雲 (僧兵) / 介添僧 / 少年僧B / 姑娘 / 衆僧 / 貴族B:池谷のぶえ
  • 主として禅僧五に扮する女 / 泰雲 (僧兵) / 看護婦 / 姑娘 / 衆僧:片岡サチ
  • 看護夫:手塚秀彰
  • 観光バスガイドの女:茂手木桜子
  • 御仏:金子文 (ご苦労さまです)
  • 作:井上ひさし
  • 演出:蜷川幸雄
  • 音楽:伊藤ヨタロウ
  • 美術:中越司
  • 照明:山口暁
  • 音響:井上正弘
  • 衣装:小峰リリー
  • 振付:前田清美
  • 舞台監督:濱野貴彦
  • 2008 年 7 月 19 日, Bunkamura シアターコクーン

一人多役をネタにした要素とかも面白いが,やっぱちょっと長過ぎ.歌が多いので,その分スピード感が削がれるのも一因だろうか.ステージ天井からの撮影カットが何箇所か.これはラストの場面では効果的だった.このカットは客席からはぜったい見られないもんな.阿部寛,めさデカいな.まさに睥睨する感じ? 栗山千明はショートの方が可愛いかも (笑).

固有名詞依存症

川端康成の『雪国』の石坂洋次郎の『青い山脈』の麓に井伏鱒二の『駅前旅館』がありました.わたしは,その旅館の漱石の『坊ちゃん』です.

作者名はけっこうですから.

やがてわたしは青春の門や肉体の門をいくつも潜って田舎教師になりました.あるとき,女盛りの砂の女とノルウェーの森を見に行きました.蝉時雨の中で坂の上の雲を眺めながら語り合っていると,エロ事師と悪名の高い風の又三郎がわたしたちを写真に撮り,世間に公表しようとしました.そのネガを奪い取り注文の多い料理店で張込みをしていると,ちょうど夜明け前でしたが,真向かいの蟹工船から投げられた砂の器が眉間に命中して,そのはずみで路傍の石に蹴躓き橋のない川に転落したのです.

小説の題名で身の上を語っていました.これは固有名詞依存症の一種ではないでしょうか

2008年6月8日日曜日

蜷川オレステース 2006

「では,それぞれの道を行くが佳い.最も麗しき平和の女神を敬いながら」 © アポローン.

『エーレクトラー』の後日談.『反悲劇』中の第五篇『神神がいたころの話』に相当する話だが,ずいぶんのオチャラけてるんでびっくり (笑).一応悲劇のジャンルに入ってるんだが,最後はめでたしめだたしで終わるし,何と言っても deus ex machina が大々的に介入してくるしで,かの『オイディプース』に比べると.ずいぶんと毛色が違った感じになる.お話は,姦婦抹殺のつもりが母殺しとされて狂を発したオレステースと姉エーレクトラーはアルゴス人の裁きを待っている.トロイアから帰還したメネラーオスに助力を歎願するが入れられず,テュンダレオースからも疎まれた末,死刑判決が下る.あくまで二人を支持するピュラデースを加えた三人は,ヘレネーを殺して舘に火を放とうとするが,ヘレネーは神隠し (笑).ヘルミオネーを人質に取ってメネラーオスを面罵しているところへ,アポローンの介入が入り云々,と言った感じ.最後のアポローンに至っては,なんなんですか,こりゃ.噴いてしまったではないですか (笑).

雨に擬した水が始終滴るという舞台で,確かに目を引くが,ときに水音がうるさくて台詞が聞き取り難いのは困りもの.女ばかりのコロスが,しばしな泣き女集団にもなるのは何の冗談か,ちょっと面白いかも.音楽は無国籍ヴォーカルとパーカッションで,なかなかカッチョエエ.あと,やっぱ叫びが多いのはかなり興を削ぐな〜.なんか白々しい.前半のタメを受け止めるべきカタルシスがないのもなんともな〜.最後のアポローンの介入にアメリカ国歌が被るのも,なんともあざとい.要らんことせんと,素のままを出せば佳かったのかも知れない.ってか,蜷川演出とギリシア悲劇は合わない? 『オイディプース』は希有な例外ですか?

  • オレステース:藤原竜也
  • エーレクトラー:中嶋朋子
  • ピュラデース (オレステースの従兄弟):北村有起哉
  • メネラーオス (アガメムノーンの弟,ヘレネーの夫):吉田鋼太郎
  • ヘレネー (クリュタイムネーストラーの妹,トロイ戦争の元凶):香寿たつき
  • プリュギア人 (ヘレネー付きの奴隷):横田栄司
  • 知らせの者:田村真
  • ヘルミオネー (メネラーオスとヘレネーの娘):前川遙子
  • アポローン:寺泉憲
  • テュンダレオース (レーダーの夫,ヘレネーの戸籍上の父):瑳川哲朗
  • コロス:市川夏江,江幡洋子,井上夏葉,羽子田洋子,難波真奈美,今井あずさ,栗田愛巳,松坂早苗,江間みずき,さじえりな,植木彩子,成澤希見子,額田麻椰,村田京子
  • 侍女:永野雪絵,茂手木桜子
  • 従者:横田透,兼子和大
  • 作:エウリーピデース
  • 演出:蜷川幸雄
  • 翻訳:山形治江
  • 美術:中越司
  • 照明:原田保
  • 衣装:小峰リリー
  • 音響:井上正弘
  • 音楽:池上知嘉子
  • 演奏:東佳樹,内田真裕子,山下由紀子,石橋知佳
  • 2006 年 9 月 14 日,シアター・コクーン

テュンダレオースが説く暴力の連鎖説は説得力抜群.メネラーオスの右顧左眄振りもお見事.オレステースは確かに寿命を縮めてそうな大熱演.細見のエーレクトラーに烈婦振りはないので L は無理としても Q とか P なら……,どうだろう (笑).ピュラデース,その表情からてっきり最後に裏切るんだと思ってた.すんません (笑).ヘルミオネー,アポローンの介入でオレステースとの結婚を命ぜられたときの嫌そうな顔が忘れられない (笑).

やっぱこの前の『エーレクトラー』篇の方が観たいな〜.シュトラウスのオペラ版でもエエですから,と思ったが,『サロメ』とは違って,予想よりも映像には恵まれとらんようだな (笑).