ぐる式 (貳) より引っ越し作業中.未完.

2004年9月23日木曜日

忘却の旋律 #24 それでも旅立

  • 忘却 DVD 2b / 忘却 DVD 3a
  • 「旋律劇場への誘い」 / 新居昭乃 4th CD 『エデン』 / ジパング / Rosenmaiden
  • ジパング

 「けれど,生きる闘いを投げ出さないものたちは,今日も自分たちの旋律を奏で続けています.走れ.その厳しさを知りながら,なお本当の自由を求めるものよ.お前が辿り着くべきその彼方まで.世界を貫く矢のように」 © 忘却の旋律.

 最終話.第 8 部は第 23 話で終わりで,これは第 9 部というか結尾部というか,まぁ,そんな感じ. 2 話で構成されていた第 1 部が名称を与えられていないのと同様の扱い.頭に忘却の旋律の語りが入るのも同様.このときのバックの音楽も "The War of 20th Century" に戻った.長い放課後が終わった.いや,長い放課後への前奏曲が終わったというべきだな. A パート・ケツのアイ・キャッチがないけど (理由は判らない), B パート頭のアイ・キャッチはモノクロで第 1 話の A パート・ケツのソレと同じ.つまり,放課後が終わって帰ってきた場所はそこだ.確かに放課後は終わった.だが,それは序幕が終わったに過ぎない.それゆえ ここよりはじまる (Nun Komenciĝas) という,忘却の旋律が語る上の台詞だ.ドロップ・アウトという点ではペイトンの『薔薇の構図』,伝統と創造と継承というでは『Die Meistersinger』を思わせる思春期物語,成長譚ということに,とりあえずはしとく.

 「忘却の旋律の実体がある場所はモンスターにも手が出せない」であるがゆえに,そこにいるモンスター・キング・ソロモン III 世がモンスターではないということが初めて明示されたが,じゃ誰なのかと問えば,聖痕はあるし弓矢は射るしで,元あるいは現役のメロスの戦士であることは明々白々なのだけれど,ボッカが The Last One なら,キングは元戦士.かつてキングもボッカと同じように昇りつめて,最後の選択で,歌うことをやめた.あるいは声を捨てた.「メロスの戦士」であることを超えるということは,そういうことか.「自分の歌を歌わない」,「教えた歌を歌わない」キングは,代償として自分の内なる「忘却の旋律」を生み出し,彼女に歌わせることにした.つまりはイールのヴィーナスを生み出してしまったわけなのに,それを自分の理想と誤解した.彼女は戦士にしか見えないし,言葉を語りかけることもない.なぜならキング自身が歌うことをやめたからだ.キングの願いは「おれを見ろ! おれはここにいる」それ一点だったのに.指環をはめたかつてのソロモン王は,けものや鳥や魚や地を這うものどもと語ったという. III 世はそれすら叶わない.イールのヴィーナスの復讐だ.

 あるがままの実体を認めず理想を追い求めるキングには幻影しか与えられないが,対するボッカの「忘却の旋律」である小夜子は実体だ.それが最終決戦の勝負の分かれ目となった.画面上でのキングの最期の言葉は「思い出せない.ほら,辛いときさ,いつも君が歌ってくれた,あの歌」だった.彼にとっては文字どおり「忘却の旋律」だったわけだ.キングは「忘却の旋律」を幻としか認識していない.「忘却の旋律」とは理想ではない.常に変化することをやめない生存への欲求であり,意志である.

  III 世を倒したボッカが選んだのは,歌うことをやめないこと,声を捨てないことだった. III 世がモンスターを支配下に置くことで,いわば空間を固定し時間を流れるままに任せたのに対し,ボッカは対立構造を付与せずに,共闘関係を継続するという時間を制御する道を選んだ.半年間の螺旋を描いて第 1 話に戻ってきたように.チーフ・ヴイや忘却の旋律が言っていたように,「モンスターを全て滅ぼせば世界は皆彼ら (猿人 / 閹人) のようになってしまう」からには,モンスターの存在理由は必要悪ということになる.ボッカは「流れ者」,「社会不適応者 (© チャイルドどらごん)」と譏られる立場に身を置くことで行動の自由を得,そこでボッカは永遠にモンスターと対峙する.永久革命のような絶えざる闘争に身を置くことで,ボッカは自分自身の律動を保つことにしたのだ.

 だが,それは元の世界ではない.そこで彼は黒船さんと同じ言葉を発する.長い放課後の終わりは,新たな伝説の始まりだ.元の担任が登場する世界で,笛吹き少年パーンの犠牲に選ばれたのは l++ のエムだが,彼女は逃げ出している.なによりも,ボッカの後継者と思しき少年の名前はカオンだ.加音は同時に鳴り響く二つの音の振動数の和に等しい音だ.それは,モンスターの世界と人間の世界における新しい関係の象徴なのかもしれない.

モンスター・キング・ソロモン III 世のために

 「犠牲になる子どもの方がまだ救いがある.誰かひとりでいい,ぼくと同じ孤独を知り,ぼくを知ってくれるやつがいないと,おかしくなってしまいそうだ.君はすでにぼくと同じなんだ」 © モンスター・キング・ソロモン III 世.誰か,彼に声を作ってやってくれ.

 この世の誰もきいたことのない音,この海原ごしに呼びかけて船に警告してやる声が要る.その声をつくってやろう.これまでにあったどんな時間,どんな霧にも似合った声をつくってやろう.たとえば夜更けてある,きみのそばのからっぽのベッド,訪うて人の誰もいない家,また葉の散ってしまった晩秋の木々に似合った……そんな声をつくってやろう.

 泣きながら南方へ去る鳥の声,十一月の嵐や,寂しい浜辺に寄する波に似た音,そんな音をつくってやろう.

 それはあまりに孤独な声なので,誰もそれを聞き漏らすはずはなく,それを耳にしては誰もがひそかに忍び泣きをし,遠くの街で聞けばいっそう我が家が暖かく懐かしく思われる……そんな音をつくってやろう.

 おれは我と我が身をを一つの音,一つの機械としてやろう.そうすれば,それを人は霧笛と呼び,それを聞く人はみな永遠というものの悲しみと生きることのはかなさを知るだろう

[ 萩尾望都, 野田秀樹 "戯曲 半神", 小学館, 1987, ISBN4-09-387032-2, pp. 63-64. より ]

 Die Rosenmaiden の OP って,また Ali Project なのか……? orz

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