ぐる式 (貳) より引っ越し作業中.未完.

2004年9月20日月曜日

piano #10 やさしさを持って - con grazia -

 「わたしは野村美雨.ピアノ,弾き続けます.これからも,ずっと」 © 野村美雨.

 最終回.相変わらず芝居が細かくて丁寧.寒風にふと丸めた背中を伸ばした視線の先には,ぽつりぽつりと桜の花.微笑みを浮かべる美雨.春はもうすぐそこだ.曲作りも順調なのかな.

 「美雨にしては上出来です.渡す人が三人もいるんですから」 © 野村瞳,

 学校の玄関先で見掛けた高橋先輩,美雨が後を追おうとすると,高橋先輩の傍に現われる人物は, piano #07 心を込めて大胆に - con bravura - のクリスマス・パーティに参加していた人物らしい.いやはや適当に引っ張ってくりゃエエものを.些細な点まで揺るがせにせんな.

 発表会当日が高橋先輩の合格発表の日と重なるのでチケットを渡すことに逡巡する美雨だが,迷うようなことか? 合格発表なんて見たらおしまいだから,たいして時間取らんだろう,おまけに朝っぱらからやってるから.発表会の方は規模が大きければ早くから始まるだろうが,中学生の部はどうせ半分のちょい前ぐらいだろ,午後一かそれ以降ぐらいだから,時間的には充分間に合うはずだ.

 最終回なので主要な登場人物が集まってくる.野村家も久し振りに一家全員が揃う.「美雨の彼氏」 © 暁子さん -> 「彼氏?」 © 誠司さん -> 「違うの,優希ちゃんの」 © 瞳さん.うまくフォローしてるけど,瞳さん察知してるな.「もうそんな年頃か」 © 誠司さん,そうなんですよ.

 発表会前の最終レッスン.「ちゃんと見えてるな,伝える相手.いろいろあったな.後はお前次第だ」 © 白川先生.後の展開を知ってからこれを聞くと…… ううむ.美雨はこの言葉に促されて,高橋先輩にチケットを手渡す.

 白川先生宅の机回り.左に Quadraspire と思しきラックに機材が 4 台.いちばん上は CDP かな. Arcam みたいな面構えだけど,違う.ラックの左と机の右,足付きのはスピーカかな. Bose の 363 に似た形状だけど,スリットがないのと,背が 363 より高い.白川先生なら,A-Lab の Stella Melody か, Elac や Avalon 使ってそうな印象だけど (笑).この辺は 北へ。 Diamond Dust Drops #01 〜函館〜茜木温子 前篇 の方が詳しかったな.あら,アナログ・プレイヤーもないのか.ピアノの高域はアナログの方がエエんじゃないの?

 暁子さんと白川先生.「当日渡してくれないか」の一言ですべて察知してしまう暁子さん.

 発表会当日. OP が流れてくる.暁子さんから渡された白川先生の手紙.「これからも piano 弾き続けろ 出来るな,お前なら」.一つ前の西島多恵子さんがガンガン弾いてる間,ステージの袖で待機中の美雨,脇から客席を覗く.高橋先輩の姿が見える.瞳を輝かせる美雨.この感じ,なぜか懐かしい.

 アナウンスがあってステージ中央に進む美雨.鍵盤に手を置いたところで幕.

 みんなが集まっているだけに,その不在が目立つ白川先生の出奔は,美雨に託したメッセージを読めば判る.弟子に免許皆伝を与えたは佳いが,我が身を振り返れば,ということだろう.窓から外を見てるだけでは,いつまでも内に止まったままでしかない.窓から世界が見えるけど,それは見てるだけであって,そこに存在している訳ではない.伝える相手との関係性を持つためには,一度は同じ土俵に立たねばならない.そこまではエエとしても.だから,発表会後ではいけなかった.とはならんと思うがな.暁子さんではないけれど,やっぱ見届けてやれよ,と思うわけですよ.

 で美雨だが,一度どん底を経験しただけに,少しはふてぶてしさを身に付けたかというと,そういう訳でもないだろう (笑).ただ,白川先生が見抜いたとおり,外部への働きかけとして,一応最低限のラインはクリアしたということなんだろう.けっきょく美雨にとってピアノ (を弾くこと) は二人三脚の相手のようなもので,どちらが欠けてもよろしくない.白川先生はちゃんとそれを判っていて指導してくれていたけど,後任の先生は判ってくれるのかな,と心配になるが,むしろ,すでにそれは美雨自身の問題になっているので,「後はお前次第だ」ということなんだろうな.

 ところで,本作は身の回りの人たちにはあまり評判がよろしくない.「逝っちゃってる」モノとか「とことんオタク」モノとかが好みの人たちだからしょうがないとは思うが,いささか口惜しい (笑).この作品はダイナミック・レンジが狭い.というか比喩的にいうとマクロで接写だ.同じ距離から見ると,他に比べてまるで凹凸がないのだが,近寄って観てるので,芝居の細かさも相まって肌理の細かさが目に入るようになる.これが気に入っている.派手なドラマがないので,観る側にもある程度の歩み寄りが必要なのだと思う.言わば,あちらから大声で呼びかけてくるようなことはしないのだ.こちらから出向いて探しに行かなければならない.それをしなければ,この作品は何も起こらない退屈な作品に見えてしまう.でも,一度咲いている花を見つけてしまえば,そこからたゆとう世界が見えてくる.観終わって,暖かく緩やかな気分に浸れる,そんな作品だと思う.こういう作品も必要でしょう.その性質から言って,ながら視聴には,おそろしく不向きだろうな.

 美雨のオリジナルはけっきょく全体を聴かせてもらえなかったので,何か聴きたくなった.久し振りにリパッティでも聴こう (笑).

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