「わたしの名前は野村美雨.たくさんの人たちに囲まれて,ピアノを弾いています」 © 野村美雨
「誰かを想う気持ちが無意味だなんて想ったこと,一度もないけどね」 © 野村瞳.
雨の日の午后.電話口でぺこぺこ頭を下げながらお休み電話を入れる美雨.反対車線の歩道,そこに通りかかった高橋先輩.黙って見守る.
前回 反省の海に沈んだ美雨,今だ浮上の兆しを見せず,首まで浸かってもがいている.「何のために弾いてるのか,判らなくなっちゃった」.っていうか,お前今まで考えたことなかったろう,今初めて考え込んでるだろうがとツッコミたい気もするが,まぁ,やめておこう.とはいえ,当人にとっては相当深刻で,何も手に付かない.とうとう,逃亡宣言してしまう.
「ピアノをやめれば,全部終わる.嫌なことも,哀しいことも.迷うことなんてない」と,迷い続ける美雨.発表会はともかく,ピアノに関しては「やめたい」 or 「やめようかな,なんて」とだけで,はっきりやめるとは明言してないが.この退行現象に収まらないのが優希ちゃんで,絶縁を宣言.明くる日,近寄ってくる美雨をそっけなくはねつける.このとき,ふと見せる躊躇いの表情が細かい.
ピアノ教室で,夕凪先生と白川先生に「やめます」宣言してしまう美雨.優しそうではあるが,お座なりなことしか言ってくれない夕凪先生に対し,白川先生がここいちばんの名台詞.「やめるな.やめるな,野村.発表会には出なくていい.教室を辞めてもいい.でも,ピアノはやめるな.頑張れ,野村」 © 白川先生.ふだん,無口でぶっきらぼうで,「いつもしかめっ面をしている」から,よけいに.ここからが今回のクライマックス.
泣きそうな顔で教室を出る美雨の姿に OP が重なる.高橋先輩や滝沢先輩,瞳母さんの声が聴こえてくる.「わたしは,何を見てきたんだろう」.ぐらぐらしている心に救いの手を差し伸べるのは優希ちゃんの言葉.「あんな風に負け惜しみみたいなこといって終わらせないでよ.わたし許さない」.まぁ,遅かれ早かれ「やめます」宣言は撤回することになったんだろうけど,躊躇っている背中を押してくれたのが優希ちゃんの言葉.
曲作りを再開した美雨.暖かく見守る誠司さんと瞳さん.高橋先輩からの架電.ようやく,浮上だ.
主人公の精神状態が最低の状態から浮上するのがこの話の主眼.美雨の周りの人々の言葉が多数引用されているのは,無自覚だった彼女が意識的に周りを認識しだしたことの証左だろうか.最後のモノローグがそれを物語っているし,タイトルは美雨なりの周りの人々への返答だろう.白川先生の言葉から最後までは、音楽の力もあるとはいえ感動的だった.
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