ぐる式 (貳) より引っ越し作業中.未完.

2005年11月28日月曜日

蟲師 #06 露を吸う群

  • 蟲師 OP CDS

「ごめんね,ナギ.向こうなら生きて行けるの」 © あこや.

なんか島田荘司の『暗闇坂』の匂いがするミステリっぽい話だなと思っておったが,いやぁ 前回 と違って救いのない結果になっちまったな.舞台は漁もできないような安易な接近を禁じる絶海の孤島なんだが,島主が妖し気な疑似宗教的儀式を執り行なっておるなど,かつて埜戸と呼ばれていた村落に似た雰囲気も感じる.

(不明)
強い香りを持つ,昼顔に似た花から,鼻腔に寄生する.形状はディノミスクスの脚を極端に短くして引っくり返したような形,というか,脚部のないキノコあるいはクラゲのような格好をしているが,眉間の秘孔を突かれて出てくるときは,拳の幅ほどの長さのコイル状.生涯時間はおよそ一日.死ぬ前に胞子様な粉末を吹いて同じ宿主に子孫を残す.宿主の体内時間を自分に同調させる.『ワンダフル・ライフ』よりも『エイリアン 9』に出てきそうな感じか.

たぶん,「種を問わず生物の生涯脈拍数はほぼ同じ」というのは,本川達雄『ゾウの時間 ネズミの時間』, 中公新書, のソレだろうが,何故か手元に見当たらんので,ちょっと違うけど (またもや) ユクスキュル, クリサート『生物から見た世界』, 岩波文庫, を引いておくです.この 辺り.どういうわけか Rozen Maiden träumend で引いてるが (笑).

生き神として一日ごとの死と再生を繰り返してた あこや の記憶が引き継がれていたのかどうか気になるんだが,フェニクスのように自己再生するからにはクリアされているのだろう.だからこそ一度人間に戻った あこや は「目の前に広がる,当て所ない膨大な時間」がクリアされずにあることに「足が竦む」.その恐怖は (父親の死もあるが) 再度蟲の寄生を招くほどに強いものだった.

ところで,周期的に姿を見せる渡り鳥という存在から,自己の再創造というモティーフを発見したとたんに,この鳥の性別が消滅するというのは置いといて,自らの骸から自分自身を生み出すというのは ラクタンティウス が歌っている『フェニクス讃歌』そのものである.こちらの死と再生の周期は千年だった.これが一日周期ということになれば太陽神ラーである.いずれにしろ,この「再生」には希望のアウラがある.だが, あこや の場合にはそれがない.冒頭,岬の突端にナギが,その後ろに あこや がいるシーンでは,少なくとも希望の予感があった.それが結末近く,位置が逆になって岬の突端に あこや,その後ろにナギがいるシーンでは,むしろ絶望あるいは諦観しかない.小賢しい人為的な疑似宗教的道具に過ぎなかったから,というのもあるだろうが,話はもっと単純だ.彼女は統一性を欠いている.「一切を包み込む光輝と力」がない.

「あこや」という名前の由来が「あこや貝」なら,その内部に「真珠」を抱え込んでいたはずだ.それは外部から見れば,まことに「真珠=生き神さま」だが,当の貝自身および同等のものにとっては異物=蟲以外の何ものでもない.しかも,外部で珍重されるのは,自身ではなくて異物の方である. あこや の父親の島主も「あこや も出来の佳い子どもじゃなかったが,孝行できて満足だろう」と漏らしている.彼女はそういう存在だったのだ.それだけか.

このラインでは「契約は二度目の実行が本物」の法則があって,二度目に生き神さまになったとき=再発したときは,前より症状が悪化している.これはキイスの「アルジャーノン」やサックスの「レナード・L」と同じ効果をもたらす.

名前からすると,島主の執り行なう妖し気な疑似宗教暴露では「薙ぎ」であったナギも, あこや の件に関しては,やはり「凪」であって風を起こすことはできなかったとなってしまう.

どっちも向いてもダメそうなんだが,もしかしたら一つだけ救いがあるかも知れない.これも名前からの連想なんだが,「あこや」をそのまま漢字にすれば「吾子也」となる.島主の生き神信仰の人為性は暴かれたが,その信仰自体がどうなったのかは判らない.島主は村人たちの私刑にあって殺された*1が,彼女自身はそうではない.ギンコの治療を嫌っているものもいるとのことで,同様に信仰も生き残っている可能性があるのだが, あこや 自身の「生き神」性は薄れたと思われる.そうなると,彼女は,その名前で呼ばれるのではないか.つまり, あこや は人々に あこや (=吾子也) と呼ばれる訳である.彼女を「あこや」と呼ぶ者すべてが,彼女の親もしくは同等のものになる.他人にとっては地獄,彼女にとっては楽園に自分自身を追放して,すでに人ではなくなっている彼女を人々は「わが子よ」と呼ぶ.そうであって欲しい.

蟲師 #06 露を吸う群:更に追記:2005.12.05

えむいち。: 「蟲師」第6話 露を吸う群(関西テレビ)感想 を読んだら,引用台詞も同じだし,『ゾウの時間 ネズミの時間』に言及してるのもいっしょ.加えて揚げた時間は plateau さん の 2005年11月27日 14:37 に対して,こちらは (2005.11.27 - 23:34:25) ということで,こりゃパクッたと言われても反論できんぞ (笑).

「灰羽よりはキノの旅に近い」という点ではご賛同いただき,ありがとうございます.って,『キノ』の原作読んでないですが.『巷説百物語』は好きなんですが,コレはちと違うと思うです.あちらは因果応報ってのがベースにあると思うし.あ,コレも京極堂の原作は読んでないです.

*1: 最低の人間だった父親が,多額の保険金を掛けて殺そうとした娘にアンジェリーナという名前を付けた点だけは認められたように (*), あこや の父親も最低の人間だったが,名前の付け方だけは誉められても佳いかも知れない.

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