ぐる式 (貳) より引っ越し作業中.未完.

2006年6月18日日曜日

アンドリュー・ヴァクス『凶手』

  • アンドリュー・ヴァクス "凶手", 佐々田雅子 訳, ハヤカワ文庫, 1998, ISBN4-15-079607-6, (Andrew H. Vachss "Shella", 1993)

バークのシリーズではない.主人公はゴースト=ジョン・スミスなる名無しの男.ソニック・ユースかアルバート・アイラーかってな感じで (をい).わたしは山下洋輔トリオだけど (やめんか,痴れ者めが).バーク・シリーズではすでに存在しているものであるファム・ファタルが,一度与えられたあとで見失い,それを探す話.周りを固めるファミリーの姿もない.孤独なアウトロー.比べたわけではないけど,バーク・シリーズに比べてセンテンスは短く.トーンも暗い.アーリア主義者の集団に潜入してその総統を殺すという, 200 ページほどの長いクレシェンドがあるが,色合いはバークのそれほど派手ではなく暗く重い.

ファム・ファタルの名はシェラ.先の総統殺しと引き換えに見付けてもらったシェラはとうに道を踏み外し,ほとんど死人のようになって入院中.ゴーストは彼女の最後の頼み.自分を殺せという頼みをかなえてやる.

おれは黙ってうなずいた——何も喋れなかった. 「愛してる」シェラはいった.  シェラの首は枯れ枝のように折れた.

病院の玄関を出た.暗闇が迫っていた.ジープはそこにあった.新しいバッテリーを入れたデュークのラジオのように.  運転席に乗り込んで,エンジンをかけた.しばらく,そのまま座っていた.  それからヘッドライトをつけ,駐車場からゆっくり走り出した.  ハイウェイにぶつかると,車を東へ向けた.  おれのジャケットを取りにいくために.

バークにはこれが可能だろうか?

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