ぐる式 (貳) より引っ越し作業中.未完.

2006年7月21日金曜日

ローレンス・ブロック『八百万の死にざま』

  • ローレンス・ブロック "八百万の死にざま", 田口俊樹 訳, ハヤカワ文庫, 1988, 1993, ISBN4-15-077451-X, (Lawrence Block "Eight Million Ways to Die", 1982)

スカダー・シリーズ第五作.タイトルどおり,バカスカ人が死ぬ.ま,大半は新聞上で,だけど.「八百万」を「やおよろず」と読むと,死にざまを曝すのは神々となって,生き残るのは神に見離された人間どもだけ,ということになる.

エレイン・マーデルの紹介で,キム・ダッキネンという北欧出身のコールガールが,そのヒモと手を切りたいので便宜を図ってくれと依頼して来る.スカダーがそのヒモ チャンスと逢って談判 (というほど緊迫したものではないが),了承を取り付けてキムに報告した直後,キムは斬殺される.真っ先に容疑を掛けられたチャンスが真犯人探しをスカダーに依頼する.このチャンス,ヒモという職業にも関わらず非常に印象的な人物.用心深いのは当たり前とはいえ,アフリカのプリミティヴな美術品のコレクターだったりする.物語の最後の方ではスカダーに示唆されてアフリカ美術のディーラーになろうかとも考えている.「腐りきった,くそ溜めみたいな市」にはもったいない真面目な人物なのである.ヒモだけど.

「〝裸の町には八百万の物語があるのです〟」と彼は声の調子を変えて言った.「覚えているかい,この番組? 何年か前テレビでやってた」

「ああ,覚えてる」

「毎回番組の終わりに今言った台詞がはいるのさ.〝裸の町には八百万の物語があります.これはそのひとつにすぎないのです〟ってな」

「ああ,覚えてるよ」

「八百万の物語か」と彼は言った.「この腐りきった,くそ溜めみたいな市に何があるのかわかるかね? 何があるのか? 八百万の死にざまがあるのさ」

[ ローレンス・ブロック『八百万の死にざま』, p. 187. より ]

目の前で,あるいは新聞上で目にするこの死体の山.ニューヨーク市警のジョー・ダーキンもスカダー自身も,目の前に山と積まれたタスクを淡々とこなして行くしかない.この辺の哀切というか諦観がブロックの味なのかな〜.

今回は明確な,というか個別に特定できる犯人がいない.強いて言うなら民族の死生観というか,報復観とかそういうもの.コロンビア人からクレームが付くんじゃないか (笑).

物語にはもう一つ筋があって,それはスカダー自身の「自分がアル中である」という認識との闘い.こちらの方も最後にちゃんと決着が付くが.オチはなかなかの捻り技で,スカダーのカタルシス体験を読者もある程度共有できる.スカダー・シリーズ内では 500 ページを超える分量を誇る本作だが,タイトルだけでなく中身もやっぱ傑作でしょうな.

0 件のコメント:

コメントを投稿