ぐる式 (貳) より引っ越し作業中.未完.

2004年7月17日土曜日

南方熊楠『十二支考』

  • 南方熊楠 "十二支考", 南方熊楠全集第 1 巻, 平凡社, 1971,

 「十二支」と称しつつも「牛」なし.「鼠」以外は雑誌『太陽』に掲載されたもの.

  1. 虎に関する史話と伝説,民俗
  2. 兎に関する民俗と伝説
  3. 田原藤太竜宮入りの譚
  4. 蛇に関する民俗と伝説
  5. 馬に関する民俗と伝説
  6. 羊に関する民俗と伝説
  7. 猴に関する伝説
  8. 鶏に関する伝説
  9. 犬に関する伝説
  10. 猪に関する民俗と伝説
  11. 鼠に関する民俗と信念

合祀に関する話

 前和歌山県知事川村竹治が何の理由なく,国会や県会議員に誓うた約束をたちまち渝して,予の祖先来数百年奉祀し来った官知社を潰し,偏に熊楠を憤らせて怡ぶなどこの類で,いずれも仏眼もて観れば,仏国のジル・ド・レッツが多数の小児を犯姦致死して他の至苦をもって自分の最楽と做したに異ならぬ.川村のことはただいまグラスゴウ市の板元から頼まれて編みおるロンドン大学前総長フレデリク・ヴィクトル・ジキンス推奨の南方熊楠自伝にも書き入れおるから外国までの恥曝しじゃ.とにかくかかる残忍性多き者が平気でいらるるこの世界は,まだまだ開明などとは決して呼ばれぬべきはずだ. pp. 73-74

 その時予は窮巷の馬小屋に住んでおったが,確か河瀬真孝子が公使,内田康哉子が書記官で,これを聞いて同郷人中井芳楠氏を通じて公使舘で馳走に招かれたのを他人の酒を飲むを好かぬとして断ったが,河瀬・内田二子の士を愛せるには今も深く感佩しおる.前に述べた川村竹治などはまるで較べものにならぬ. p. 75

 また政府が予の発見発言の功を認むるの日が幸いにあったら,勲章の何のと下さるに及ばず,海外多数の碩学名士がいつも同情せらるる予の微力をもって老のすでに至れるを知らず,ややもすれば眠食を廃して苦辛する研究に大妨碍を加うる和歌山県の官公吏を戒飭して,かの輩衣食のために無益のことを繁く興し,あるいは奸民と結託し,あるいは騰記料を撤免してまでも,日本国光の一大要素たる古社神林を棄市凌遅同然の惨刑に処し,その山を赭にしその海を蕩し,世界希覯の多種の貴重生物をして身を竄し胤を留むるに処なからしめて,良好の結果を得たりなど虚偽の報告を上りて揚々たるを厳制されたいと啓す. p. 248

 まだそれより著しいは,前年,現時為政者たる人が浅薄な理想を実現せんとて神社合祀を厲行し,只今も在職する有象無象大小の地方官公吏が斜二無二迎合して姦をなし,国家の精髄たる歴史をも民情をも構わず,神社旧跡を滅却し神林を濫伐して売り飛ばせてテラを取り,はなはだしきは往古至尊上法皇が奉幣し,国司地方官が敬礼した諸社を破壊し,神殿を路傍に棄て晒した.熊楠諸国を遍歴して深く一塵一屑をも破壊するということのはなはだ一国一個人の気質品性を損するを知り,昼夜奔走労苦してその筋へ進言し,議会で弁じてもらい,ついに囹圄に執わるるに至って悔いず.しかるにその言少しも用いられず.不祥至極の事件の関係者が合祀厲行の最もはなはだしかった地方から出た.神社合祀が容易ならぬ成行きを来たすべきは当時熊楠が繰り返し予言したところなるに,その讖ついに成りしはわれも人もことごとく悲しむべきである. p. 404

 すでに先年合祀を強行して,いわゆる基本財産の多寡を標準とし,賄贈請託を魂胆とし,邦家発達の次第を攷うるに大必要なる古社を滅却し,一夜造りの淫祠を昇格し,その余弊今に除かれず,大いに人心蕩乱,気風壊敗を致すの本となった.しかし,毒食らわば皿までじゃ.いっそのこと,葬式,問い弔いを官営として坊主どもを乾し上げ,また人ごとに一銭の追福税を課し,小野篁などこの世と地獄を懸持ちで勤務した例もあり,せせこましい官吏どもに正六位の勲百等のと虚号をやったって何の役にも立たず,恐敬もされぬから,大抵人民を苦しめた上は神をすら濫造陟するご威勢で,それぞれ地獄の官職に栄転させ,支那で貨幣を画き焼いて冥府へ届くるごとく,付け木へ六道銭を描いて月給に遣わすべしだ. pp 435-436

その他

  • 八三五年にイリアの僧正テオドミル,奇態な星に導かれて,その遺体 (サンチアゴ大尊者) を見出だしてより,そこをカムポ・ステラ (星の原),それが転じてコムポステラと呼ばれたという. p. 432
  • 時計始めて渡来した時,これを鶏の時を報ずるに比べて明人が斗鶏と書いたは,北斗の形した針が時を指し,おのずから鳴いて人に知らすこと鶏のごとくなるゆえ,と白石先生の『東雅』に出づ. p. 489
  • 『一休諸国絵巻』四より三体の化物の歌 p. 471
    1. 東の野の馬の頭顱 「東野のばづが糸しいことや,いつを楽とも思ひもせいで,背骨は損じ,足打ち折りて,ついには野辺の土となるなる」
    2. 西の薮中に三足の鶏「西竹林のけい三ぞくは,有甲斐もなきかたはに生まれ,人の情けを得蒙らで,竹の林に独りぬるぬる」
    3. 南の池の鯉「南池の鯉魚は冷たい身やな,水を家とも食ともすれば,いつもぬれぬれにやにやしとしと」
    三善晃 "変化嘆詠", ビクターエンタテインメント VICG60156, 1998 では南池の鯉魚の最後は「いつもぬれぬれひやひやしひやし」

 そういえば町田康 (町蔵) の主演で熊楠の映画作ってるはずなんだけど,どうなってんだろ.

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