「そうです,四方田家の直系にのみ伝わるという五芒星の蒙古斑,成人してもけして消えることのない四方田家の証,わたしの名は四方田麿子,父の名は犬麿,父の父の名は犬丸,そしてそのまた父の名前は甲子国.初めまして,お祖父さま,初めまして曾お祖父さま,孫の麿子でございます.曾孫の麿子でございます」 © 四方田麿子.
やっぱ,いつ観ても何度観てもおもろいな〜.
1989 〜 1990 年制作の OVA シリーズ全六話.「超時空家族四方田家の栄光と没落」であるところの「明朗家庭崩壊喜劇」,御先祖様万々歳! - ぴえろ.
あたかも海のように拡がる (お馴染みの) セイタカアワダチソウが埋め尽くす (これまたお馴染みの) 埋め立て地.上空には黄色い飛行船が漂っている.そこに突っ立つのは,回りに人の気配が全くないので慰霊塔のように見える高層マンション.その中ほどに住まう四方田家を訪れる黄色い華帽子の女.曰く,当年とって十と七つ,一人息子の犬丸の孫を名乗る彼女の名は麿子,御先祖さまに一目逢いたさに三十八年先の近未来から四方田家を訪れた,と.黄色い飛行船がタイムマシン,子孫の証は臀部というより腰下部,尾骶骨上部にあるらしい (画面には出ない) 五芒星の蒙古斑.家長として血縁や家といったものを捨て置けない父甲子国と,情念の導入によってホーム・ドラマから脱却して主導権を握りたい犬丸はこれを承認するが,血縁や家なるものを切り捨てて家族という結合形態にのみ執心する母多美子は当然ながら認めることができず,自身が家を出ることになる,というのが第一話.家庭への他者の侵入と恒常的な定着というのは,その家庭の子どもが配偶者を選びとることを考えれば珍しいことではないが,日常に対する非日常の侵入と恒常的な定着というのは別.
監督,脚本:押井守,音楽:川井憲次,録音演出:千葉繁,オープニングアニメーション:南家こうじ,キャラクターデザイン,作画監督:うつのみやさとるというメイン・スタッフ陣,四方田麿子:勝生真沙子,四方田犬丸:古川登志夫,四方田甲子国:緒方賢一,四方田 (八甲田) 多美子:鷲尾真知子,ナレーション:永井一郎,室戸文明:玄田哲章,多々羅伴内:山寺宏一という声優陣からは実写の『紅い眼鏡』,『ケルベロス』,『トーキングヘッド』などが連想されるけど,やっぱあちこちでいわれているように諸星家にラムが侵入してくるという『うる星やつら』との類似が目立つ.つまりは麿子に対してなされる「1) 悪質な冗談, 2) 隠し子, 3) ぴ〜, 4) 詐欺師」という多美子の糾弾は「ラムは詐欺師だ」と言ってるわけだ.これがどう転んで行くのはあとのお楽しみだけど.これに対する麿子の申し立てが五番目の可能性, 5) マジで 38 年後の近未来からやってきた子孫であるという主張と蒙古斑の存在,それぞれの思惑を隠しつつも,犬丸と甲子国はこれを支持.つまり「ラムは宇宙人」.『うる星やつら』では疑われることのなかったこの前提に対し反論する多美子のナイス度を下げてバックグラウンドで動作させつつ,とりあえず「異界からの訪問者」を受け入れることで話を進めて行くのも『うる星やつら』的.
これもあちこちでもいわれてるけど,怒濤のような長台詞と舞台劇的な演出や照明,とくに家を出る多美子がエレベータで舞台から沈んでいくのは印象的.あと,川井憲次の音楽がイイ! しょっぱなから飛行船のテーマが出てくるし.このテーマは今後もアレンジを変えて幾度となく登場する.あ〜,それから古い日本映画の匂いもするような気がする.このメンバーだと芝居も強力で,画面消して声と音だけ聴いてても充分に楽しい.
前口上は郭公の托卵.「子に遣わるる身こそ辛けれ親子鳥」.
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