「わたしの名は室戸文明.対時間犯罪特殊機動捜査班二十世紀末極東地区担当三十八歳独身.四方田麿子,君をタイムマシンの不正使用ならびに不純血縁交遊の現行犯として逮捕する」 © 室戸文明.
一度非日常の侵入を許すと,日常の崩壊は止めどがない.高層マンションを引き払い一軒家を購入した四方田家だが,母多美子を欠く家庭に乱入するのは,時の番犬ならぬ時の官憲,室戸文明曰く「おまえはあの娘が近未来からやってきた自分の孫であるという凡そ信じ難い非日常的な設定をすでに受け入れている.それを覆す勇気がおまえの中にない以上,このわたしを否定することはできない.違うか」.文明の乱入に対し父甲子国の家長のホーム・ドラマはあっけなく破れ去るが,麿子との情念のドラマを志向する犬丸は金属バットでヴァイオレンスを導入,暴行障害で文明を排除し麿子とともに遁走.これで四方田家は三つに分裂したことになる.
ところで.対時間犯罪特殊機動捜査班って警察機構の一部なのか独立機構なのか.いずれでもエエけど,逮捕状の提示はしなくてエエのか.手錠は見せてくれるけどね.この組織の存在自体も麿子の「凡そ信じ難い非日常的な設定」が前提条件として必要であるわけで,詐欺師説に立てば麿子の逮捕劇はカモフラージュの茶番に過ぎないわけだが.
「不純血縁交遊」がなぜいかんのかという問いに対する答えとして文明が申すに国家は入れ子構造を好まないというのがあるけど,古代じゃあるまいし家を国家と比較するのは明らかに無理があるんだが,過剰な台詞で強引に納得させるのはある意味典型的な押井節でもあるんだけど,機会均等や最低限での権利平等の原則を犯すからという点から説明するんでなく,そういう対比構造を持って来ざるを得ないという点というか認識にこそ注目すべきなのかも知れない.
前口上は皇帝ペンギンの (父の) 抱卵.「雖千萬人吾往矣.斷而敢行鬼神避之」.孟子の「公孫丑章句」と『史記』の「李斯伝」から.
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